「おにーさん、これ企んでた?」

俺の机に軽く腰かけた巽がにやにやしながら、騒がしくなったクラスメイトを横目に言って来た。

「偶然の結果」

俺は片頬杖をつきつつ答える。

本当、偶然でしかなかった。

さゆが学校で普段の呼び方をしてきたのが予想外なら、俺の傍へ来てくれたことも想定の範囲外だ。

琴と相馬に知られたことで、お互いヘンに隠す必要はないという見解の一致はあったけれど、ここまで一気に距離を詰めてくれるなんて……。

「にやけてますよー、おにーさん。……中学んとき咲雪に、誰とも付き合う気なんてないとかかましてたの誰でしたっけねー?」

にやついてんのは巽もだろ、と言いたいけれど、にやけている自覚があるしこの話題では分が悪いのは俺だ。

……確かに言ったからな。

「俺かな」

わざとらしくへらっとした感じで返すと、巽は楽しそうに目を細めた。

「前言撤回?」

「しないけど」

そこはな。簡単に譲れるとこではない。

俺自身、まだあいつに憑りつかれているようなもんだから……。

「……咲雪可哀想―」

巽が平坦な声で言った。

確かに、この状況はさゆが可哀想だ。

俺が否定しなかったから、クラスの連中や話を聞いていたらしい他クラスの奴まで、俺とさゆが付き合っていると思い込んだだろう。

この様子ではさゆが否定したところで、恥ずかしがっているだけだと思われそうだ。

「さゆのことは」

……さゆのことは。

俺の中の一番綺麗な場所を独占して、決していなくなってくれないさゆのことは。

「絶対泣かせないし、傷つけないって決めてるから」

……そう、決めているんだ。

母親同士が親しくなって、その縁でさゆとも仲良くなって、今まで友達とも家族ともつかないような関係になって過ごしてきた間の、いつかの日に。

だから。

「だから、付き合わない」