このくらい言って置いてもいいだろう。

琴と俺は互いに過去を知っている――弱みを握っていると言い換えることもできる。

けど、家同士がバチバチしていたさゆと巽が仲良くて、特になんの因縁もない琴と俺が現在バチバチしているのはなんでだろう。

「そ、っか……」

「うん」

さゆはやっと納得してくれたのかこくりと肯いた。

「さっきは本当にごめんなさい。巽には言わないでください」

さゆが少し俺の方へ体を向けて、膝に額がつくほど頭を下げて来た。

「どーしっよっかなー」

素直に「わかった。言わないよ」と答えればいいものを、俺はなかなかに性根が曲がっているらしい。

さゆの反応がいちいち面白いのもあるけど。

さゆは頭を下げたままびくっと肩を震わせた。

「ほ、本当に巽に知られると、巽の晃くんガードが発動して二度と晃くんに近づけなくなるかもしれないので、何とぞお願いします……」

………晃くんガードってなんだ。

よくわかんない現象だけど、さゆが近くにいなくなるのは嫌だ。折れることにした。

「わかった。言わないよ。だからそんな頭下げんなって」

俺が言うと、さゆの肩から力が抜けて、やっと顔をあげた。

「……今日はありがとな」

「? なにが?」

一緒にいてくれたことだよ。

……とは、気恥ずかしくて言えなかった。

今日を振り返れば結構大胆なことをした気もするけど……緊急事態だったから、と言い訳しておく。

「……なんでもない。そろそろ寝ようか」

「うん……」

さゆはまだ恥ずかしさがあるのか、頬を赤らめて少しうつむいた。

何か言葉をかけるべきかと思ったけど思いつくものがなく、励ますような感じでさゆの頭に手を置いて、「おやすみ」と告げた。

さゆから一瞬遅れて、同じ言葉が返ってきた。