「いや呼ばないよ。あとそれ、琴の推測とかじゃないから。中学で逢ったとき、俺が琴に言ったことだ」
「……晃くん、琴ちゃんのこと好きだったりするの?」
「それはあり得ない」
「でも、入学式の日、晃くんから声かけたんだよね? 晃くんが女子を気にするの、初めて見た気がして……」
入学式? ……ああ、さゆと巽が俺を探しにきたときのことか。
「……まあ、女子だからどう、ではないんだけど、琴に夢を見ていた事実はある」
「ゆめ?」
そう、夢だ。
「……俺のごく身近にすごく仲のいい男女の幼馴染がいて、俺にもそんな存在がいたらな、って思うことが中学の頃からあった。そこへ、俺のことを知っていても腫物扱いしない琴とまた逢って、もしかしたら琴が、巽にとってのさゆみたいな存在になるんじゃないか、って、淡い期待をしていた時期があった。今では愚かとしか言えない期待だったけど」
「……仲のいい幼馴染になりたかったってこと?」
「平たく言えばな。それだけ――さゆと巽の関係は、俺にはまぶしい」
まあ、結果、
「琴にその手の期待をいだくのはやめた。琴と俺では、いつも言い合いになるだけだ」
きっと、馬が合わないのだろう。そのうち本当に殴り合いになるかもしれない。
「そうなの? 気の置けない友達って感じに見えたけど……」
「さゆ、今度眼科行こう」
いや、脳外科か? 脳の中の信号が色々おかしくなっているのかもしれない。
どっちにしろ、さゆは俺と琴に関しては誤解だらけのようだ。
「だからまあ琴は……今は関わりたくない奴上位だな」
「……嫌いなわけではないんだよね?」
……また際どい訊き方を。さゆは天然で穿ったことを訊いて来るところがある。
「嫌い……とか好きとか、そういう感情を琴に対してはいだかないな。昔の知り合い、を上書きするような関係性の名前がつけられないんだ」
そうなるとたぶん、幼馴染ってやつがしっくりくるのかもしれない。
でも幼馴染って割といい感じで使われているから、琴に対して使いたくないんだよなあ。
「そうなんだ……」
「うん。だからさゆは、琴が俺絡みで言ったりやったりしてくることは、全部俺をからかうためだと思っていいよ。つまり相手にしなくていい」