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「さゆ」

風呂をあがって、さゆは部屋にいるようなのでノックした。

返事はなかったけど、ガタタッと、中で何かが落ちる音がする。

「さゆ? 寝てるのか?」

……返事はない。どうやらさゆは居留守が下手なようだ。

踵を返しながら独り言を口にした。

「しょうがない。さゆに風呂場で襲われたって巽に話してこようかな――」

「はい! 起きてますごめんなさい!」

今度は勢いよくドアが開かれた。

まだ顔を赤らめたさゆが手をわたわたさせながら必死に言いつのって来た。

「あの、ごめん、なさい、私、気が、動転、してて」

何故かカタコトのように聞こえる喋り方。

動揺が収まっていないのか。

「さゆ。ちょっと落ち着こうな? ハーブティーでも淹れようか?」

小刻みに震えているさゆの両肩に手を置くと、すんと静まった。

それからこくりと肯いた。

リビングに降りて、二人分のカモミールティーを淹れた。寝る前だしな。

お茶をローテブルに置いて、ソファに座るさゆの隣に腰かけた。

「さっきの、気にしてはいないけどびっくりした。何かあったのか?」

問いかけると、びくっとさゆの肩が跳ねた。

「い、いや~その、なんと言いますか……」

「うん」

しかしさゆはすぐに答えず、視線をうようよさせている。

「……言いにくいことなら無理して言わなくていいけど?」

さゆに強制したくはない。

明日にでも琴をシメればいい話だ。

「……琴ちゃんに、言われたの」

ぴくっと、自分の肩が反応したのがわかった。

……やっぱりあいつか。

「晃くんが今幸せだと思うって。その理由が……」

「うん」

続きを促すと、さゆは恥ずかしいのか、両手で顔を覆った。

「……私がいるからだ、って言われたの……。そう思われているんだって知ったら、なんかこう、居てもたってもいられなくなって、晃くんに約束したくなっちゃって……ごめん、周りが見えてなくて痴女って呼ばれても文句はありません」

……ああ、あれか。あいつ、よく憶えてんな。