そう言い残して、琴は爆速で離れていった。
相変わらず足早ぇな、あいつ。
そしてさゆに悪影響を与えそうな暴言を吐いた琴のことが、本格的に嫌いになってきた。
俺の中の天秤は、琴には一切傾かず、さゆを護る方に全振りした。
お望み通りヤンキーのことも言わねえしもうお前に関わらねえよ、と決めて。
……しかしそんな俺を無視するように、なんと琴はさゆの友達になっていた。
しかもさゆから距離を詰めたらしい。
待てさゆ。落ち着け。ハウス。そいつはさゆみたいな純粋な子が関わっていいくそヤンキーじゃない。ただのど阿呆元ヤンだ。
……なんて、日々、琴の近くで楽しそうにしているさゆを見ながら言えるはずもなく。
さゆは相馬以外に女子の友達がいなくて、小学校時代も同性の友人はいなかったそうだから、今がすごく楽しいのだろう。
プライベートで逢っているときは、ほぼ相馬と琴の話しかしなかった。
前は巽のことも話していたけど、その影が薄くなっていた。
せめて巽に相談してみようか……そう思ったけど、一応、ヤンキーのことは高校では言わないと言ってしまっているし……と悩んでいるうちに、さゆとの同居がはじまって、そして今日だ。
――という、琴との関係はものすごく面倒くさいもので――
「晃くん――――!」
ん? 階段を駆け下りる音がしたかと思うと、いきなりドアが開いた。さ、さゆ⁉
そしてがしっと左手をつかまれた。
「私絶対晃くんのこと幸せにするからね! 琴ちゃんと約束したから!」
……何を言っているんだろう、さゆは。いやそれよりも。
「さゆ、今俺からひとつだけ言えることがある」
「なに⁉」
「ここ、風呂場なんだけど……」
「……あ」
俺の指摘を聞いて、数秒遅れてさゆは顔を真っ赤にさせた。
「失礼しました――――!」
そして入って来たときと同じ、すごい勢いで出て行った。
「わーん! 私は痴女だーっ!」という泣き声が聞こえて来る……。
湯船に浸かっていてよかった……。
そして琴が何かしらさゆに吹き込んだようだ……あのくそヤンキーめ。