「……晃?」

「えーと、久しぶり?」

前と同じようなセリフだった。

琴に話しかけたのは、好意があったからとかではない。

ただ、俺のごく身近に仲のいい幼馴染(男女の組み合わせ)がいて、少し羨ましいと思っていた。

でも俺の過去を知っていて親しくしてくれる存在なんてそうそういない――と思っていたところへ、クラスメイトだった琴と再会した。

琴は俺の家庭にあったことを憶えていても、俺を腫物扱いしたりしなかった。

もしかしたら俺にも、巽にとってのさゆみたいな存在が出来るのかもしれない……と、恋愛は全く関係しない、淡い期待を抱いていた。

「あ……久しぶりだね。晃もこの学校だったんだ」

一年半ぶりに逢った琴は、茶色が勝った黒髪になっていた。

「うん。琴……ヤンキーはやめ――

「スト――――ップ! ここでそれを言うんじゃないバカ!」

ヤンキーはやめたのか? と訊こうとした途端、タックルを受けた。

おまけにバカ呼ばわり。

そして俺の顎に琴の頭が当たった。いてえ。

――この瞬間、こいつは絶対巽にとってのさゆみたいな存在になるわけがねえと、その夢は自分で打ち砕いた。

そして琴がちょっと嫌いになった。

「琴がそうだったの誰も知らないんだから言うなよ! 琴、新しい場所でちゃんと友達作って高校生やりたいの!」

……胸ぐらをつかんで揺さぶりながら言われても……。

「わかった。わかったから離せ」

牙をむく琴を落ち着かせようと、一度手を離させた。

……毛を逆立てた凶暴な野良猫のようだ。

そのとき。

「晃―? あ、いた。おーい咲雪―。晃いたぞー」

巽と、少しだけ遅れてさゆが姿を見せた。

「どうした、二人とも」

「こ――雪村くん、奏子さんが探してたよ」

「俺はその付き添い。……ん? え、なに晃。早速女子口説いてんの? あんだけ女子寄せ付けなかったお前が?」

「えっ。さすがバレンタイン記録保持者っ」

「そんなわけあるか。あー……絡まれてただけだよ」

ヤンキーだったこととか、過去知り合いであることとか言わなかったのに、その説明が気に食わなかったのか琴は肩を震わせて――

「この……二度と琴の前に現れるんじゃないバカ―――!」