小学生の琴は、友達が多くて、いつも誰かと一緒だった。
……反対に、一人でいた俺が、今は友達がいて大事な子もいるんだから、世界はそう簡単に捨てたもんじゃないはずだ。
琴は、俺とは逆側になる右膝に右肘をついて、こぶしを頬にあてた。
「勉強かー。中一でヤンキーはじめてから全然やってないなー」
「強制はしないけど、環境をガラッと変えるのもつまらないを脱却する手だと思うぞ。今ヤンキーの方にいるんなら、優等生の方にいってみるとか。琴は器用だから出来ると思う」
本当に琴は器用なタイプだから言うと、また軽く天を仰いだ。
「……んー。嬉しいこと言ってもらったけど、琴に出来るかなー。勉強は嫌いじゃなかったけど、勉強にもつまらないって思いがあるんだよなー」
……勉強もつまらないのか。
「琴、これは俺の考えだけど、感情は行動より先行すると思ってる」
「……感情?」
意味を問うように、琴の眼差しがこちらへ向いた。
「つまらないと思ってしまえば、何を始めてもつまらないままだ。『つまらない』って感情を先に捨てないと環境を変えても意味がないと思う。俺も、そうだった」
実際、俺も置いて来た感情がある。
「……晃くんの話聞きたいなー?」
……なんで琴にここまで話しているのか、なんとなくわかった。
俺の過去を知っていながら、琴は俺を腫物扱いしないからだ。
前提、転校してからこっち、前の小学校のクラスメイトとかと逢ったことはないから、琴が異例なのかどうかはわからないけど。
「俺には辛い人生しかない。そういう星のもとに生まれたんだ。……そう思うのを、やめた。さっき話した俺のこと知っても離れなかった子ってクラスメイトなんだけど、その子と親しくなるきっかけがあった。その子は複雑な家庭環境なのにいつも笑顔で優しい。でも、俺が自分のことを卑下にしていたら、今までみたいに一人でいる状況は変わらなくて、この子とも離れるんだろうなって思ったら、それが嫌な未来だったから、自分が変わることにした」
……その子とは、さゆでしかない。
さゆが、俺が変わるきっかけをくれた。
「彼女? この子って言い方、女子だよね?」
琴が若干食い気味で訊いてきた。
「だから彼女じゃないって。女子ってそういう話好きだよな」
「琴も女子だからね。でも……そっか。そういう考えもあるんだ……」
「琴、一つだけ訊いておきたいんだけど」
「なに?」
……これは、確認しておきたい。
「捕まるようなことは……やってないよな?」