「また大胆な……。で? こっちではつまらないの、なくなったのか?」

その問いに琴は、んーと天を仰いだ。

「最初はね? でも殴ったり殴られたりしてるうちに、新鮮味もなくなって……。琴、これでも負けたことないんだ。一度でも負ければ違うのかな、なんて思ったりもして……。結局こっちもつまんなくなっちゃった。足の洗いどきかなー、なんて」

「……琴、結構すごいこと言うな」

足の洗い時って……。

「そっかな? ってか晃くんに名前呼びされるのは新鮮! 前は名前呼ばれた記憶なんてないかも――あ、……ごめん」

ああ、そうだよな。琴は知っているんだった。

「前のことは終わってることだから気にしないでいい。いきなり悪かった。呼び捨て嫌だったか?」

「全然いいよー。そういや晃くん、なんかめっちゃイケメンになってない? 彼女いるでしょ?」

「彼女はいないよ。今は勉強優先」

本当に、今は特待制度のある高校に進学することが一番。

「優等生か! ……晃くん、今、楽しい?」

少し首を傾げるように琴がこちらを見て来た。

声は、さっきまでと違って細くなっていた。

楽しい……楽しい、か……。そうだな……今の俺の状況を振り返れば……。

「楽しいよ。親友いるし、なんでも話せる子もいるし。……俺の家にあったこと全部知って、それでも離れていかなかった子」

そう話すと、琴はにやにやし出した。

「ありゃーん。超青春じゃん。いいねー、アオハル! いいなー。琴もそんな学生生活送りたかったー」

「送りたかったって……琴、同い年だろ」

「ヤンキーのレッテル貼られてる琴に、学校に居場所なんかないよ」

……ヤンキーだと、学校で知られているのか。

琴と一緒だった小学校では、地元の公立中学に進学するのがほとんどだった。

琴が私立か公立かはわからないけど……。

「なら、高校から変わったら?」

俺の提案に、琴はから笑いを浮かべた。

「高校デビュー?」

「琴、小学校のとき集中して勉強した科目は成績よかったろ? 集中力と努力に結果が伴う得なタイプなんだから、今から頑張れば、いいとこ行けるんじゃないか?」