「……へ?」
名前を呼ぶと、きょとんとした顔で俺の方を見て来た。
やはりその顔に残る面差しは……。
「三科、琴?」
「え……なんで琴の名前……」
俺も、目線を合わせるように膝を折った。
「憶えてないかな。ゆき――橘晃(たちばな こう)だよ。小学校が一時期一緒だったと思うんだけど」
小学校でクラスメイトだった琴と思しき人物は、考えるように人差し指を頬にあてた。
それから俺を見て、目をパチパチとさせた。
「……晃くん?」
「うん。えーと……久しぶり?」
俺のはっきりしないあいさつに、けれど琴はぱあっと顔を輝かせた。
「久しぶりだねえ! 元気してたっ? この辺りに住んでるの?」
水を得た魚ように――実際水をあげたけど――喋り出した琴。
このままあしらうのもなんな気がして、俺も琴の隣に座り込む。
「いや、高校見て歩いてるんだ。早めに志望校決めたくて。琴は何してたんだ?」
「もう高校考えてるんだ。晃くん偉いね! 琴はさっきも言った通り、喧嘩してきたとこ」
……喧嘩してきたとこなのか。
「……ヤンキーなのか?」
「ヤンキーだよ? ほら、髪も染めちゃった。あ、でも琴、どこかに所属してるとかツレとかいないから。一人で、売られた喧嘩買うだけだからー」
へらへらと笑う琴。
そんな、学校でこんな部活に入ってるよ、みたいなノリで言われても……。
「……なんで喧嘩なんか。痛いだけじゃないのか?」
まさか元クラスメイトがヤンキーをやっていたとは。
琴と特別親しかったわけじゃないけど、小学校時代は割と優等生な方の性格だったように思うんだけど……素直に疑問だったので訊いてみた。
「んー? 別に理由はないよ。……あえて言うなら、つまらなかったから」
「つまらない?」
それはまた大雑把で、ある意味本質を衝いたような。
「全部。ぜーんぶ、つまらなくなっちゃった。勉強も部活も、学校も家も友達も。……だから、刺激を求めて? みたいな感じかなー」
……そういう理由だったのか。
家庭に何かあったとか、そういうことではないようで少し安心した。