傷、か……。
気づかなかった。当時の、晃くんと奏子さんの状況を。
追いつめられていた、晃くんと奏子さん……。
「だったら、今から仲良く出来るんじゃないかな?」
今、晃くんと奏子さんは、笑顔で生きている。
辛い過去は確かにあって、晃くんのカミナリ嫌いが現すように、今も囚われている部分もあるかもしれない。
それでも、私が見る晃くんと奏子さんは、いつも穏やかな笑顔を浮かべている。
『それは無理』
さっきまでのしおれた様子とは一変して、琴ちゃんは厳しい口調で言い放った。
「なんで?」
『晃の野郎が咲雪ちゃんと仲いいから。ゆるせない。咲雪ちゃんを独り占めするなんて琴と凛ちゃんに宣戦布告してるようなものだよ』
それって、私と仲いいから晃くんとは仲良くできないってこと? なら、私が晃くんから離れたら……その様子をちょっと考えただけで気分が滅入った……。
でも、一応訊いておくべき……かな?
「……私が晃くんから離れたら、琴ちゃんは晃くんと仲良くできるってこと……?」
半分泣きそうになりながら訊くと、琴ちゃんはきっぱり言い切った。
『咲雪ちゃんを邪険に扱うような晃はフルボコ案件。どうあっても晃と仲良くなんて出来ない』
「殴っちゃ駄目!」
だからなんでこの幼馴染委たちはすぐお互いを殴ろうとするんだ!
「そういえば琴ちゃん、さっきから――と言うか、昼間から晃くんのこと『晃』って呼んでるけど、苗字で呼ぶとかはどうでもよくなったの?」
『……………はっ!』
琴ちゃんの反応は、今気づきました、というようなもので。
「晃くんも琴ちゃんたちが帰ったあと、『琴』って呼んでたよ。いいんじゃない? 無理に呼び方変えなくても」
晃くんも当たり前のように呼んでいたし、何より違和感がなかったから、私も琴ちゃんが「苗字で呼んで!」って言っていたこと、今思い出したんだ。
きっと琴ちゃんは、晃くんにとって特別な場所にいるんだろうなあ……。
『………む~。なんかもう今更かな……。あのね、今電話した理由なんだけど……』
「うん」
『晃のこと、よろしくねって言いたかったの』
「……え?」
……晃くんを? どういう意味だろう……。