『晃の家が大変だったって、晃が転校したあとに知ったの』

「………」

転校したあとってことは、すべてが終わったあとってことかな……。

琴ちゃんはとつとつと続ける。

『晃、昔は今と全然違った……。無口で、いつもぼんやりした顔で、誰とも話さなかった。声をかけたら、肯くか首を横に振るくらいの反応しかなかった。こういう性格なのかなって思ってた……。でも、中学のとき一度だけ再会して、びっくりした。よく喋るし笑顔も見せるし、怒った顔もするし、……中学生の晃は、感情を持ってた』

「……うん」

私は、中学生の晃くんからしか知らない。

中学生の晃くんの姿は、琴ちゃんには変わったように見えていたんだ……。琴ちゃんしか知らない晃くんがいるんだ……。

……? なんか今一瞬、息苦しくなった……?

『きっと、今幸せなんだろうなって思った。高校に入ってすぐ、また晃に逢った。新代の挨拶は、本当に聞いてなかったの。琴、中学の間ずっとヤンキーだったから友達いなくて、高校で友達出来るか不安だったし、晃の今の苗字を知らなかったから、名前を聞いてもすぐに晃だと思わなくて、まともに見てもいなかったんだ』

……何故かトゲを感じる琴ちゃんの言葉。

琴ちゃんと晃くんも、いわば幼馴染なんだよね?

「琴ちゃん、晃くんに厳しい態度とるよね? なんかあったの?」

晃くんにあった、辛いことを知っている割にはかなり言うなあとは思っていたんだ。

琴ちゃんは少しだけ黙ってから喋った。

『……琴の勝手なひがみ。琴が中学高校と一人でいるとき、晃は親友までいて、いつも楽しそうだったから、最初は八つ当たりな感じで、琴に関わらないでって言った。そしたら晃、それを鵜呑みにして……。なんか知んないけど、すごく頭よくなってるし、運動も出来るし、いつも一緒の友達もいるしって……ぼっちで、高校もギリギリ合格の琴とは遠すぎてなんかイラついてきたの。おまけに咲雪ちゃんと仲良しで一緒に暮らしてるとか! 琴に喧嘩売ってんだろ⁉ ってことばかりだったから……本当に八つ当たり』

「……そう、なんだ……」

琴ちゃん、激しいな……。

そしてなんでこの幼馴染たちは、すぐにお互い喧嘩売られたと思っているんだ……。

「でも私から見たら、仲のいい幼馴染に見えたよ?」

気の置けない友達って感じで。

……言えなかったけど、琴ちゃんが羨ましかった。

『……そんないいものじゃないよ。咲雪ちゃんと藤沢くんみたいなのを幼馴染って言っていいんだよ。琴は……もしかしたら昔の晃を、傷つけている側だったかもしれない』