「巽は……うーん、そのうち巽にも彼女出来るだろうから不用意にそんなことしないし、そもそも巽を抱きしめようなんて発想がないよ」

……巽にはそのうち彼女が出来るって思ってんのか。

じゃあさっきから不用意にそういうことしている俺はどういう認識なんだろう。

「……俺はいいの?」

「晃くん、は……」

ふと、さゆが中空を見つめだした。答えがそこにあるように。

「俺にもそのうち彼女とかできるかもしんないよ?」

まあそんな予定、欠片もないんだけど。

「え……それは……お、おめでとう、と言うべきなんだろうけど……」

「けど?」

……と言うか、おめでとうなのか。さゆに言われると複雑だ……。

そんな妙な心地になってさゆを見ていると、その唇を噛んでうつむいた。

「……手放しで喜べそうにない……ごめん! 狭量な友達で!」

……その顔は泣きそうになっていた。

喜べそうにないって……そんな現実は嫌だと思ってくれているってことだろうか? もしそうなら、その理由を訊きたい。

「大丈夫。そんな予定ないから」

……けれど、さゆは目を白黒させていて、これ以上問い詰めるのは気が引けた。

なだめるように、さゆの頭を撫でる。

「……晃くんは?」

「なにが?」

訊き返すと、さゆはそろりと上目遣いに見上げてきた。

「その……こういう、頭撫でるとか……誰にでもする?」

……んー。

「今のところさゆにしかしたことないな……」

「こ、琴ちゃんにはしたいと思うっ?」

「え……」

琴? なんであいつの名前が……でも訊かれたし答えないと。

……そうだな、琴か……小学校が一緒で、中学の頃再会してヤンキーをやっていると知り、高校でまた逢った……。

「琴だったら拳骨でぶん殴る方が現実的だな……」

「殴っちゃ駄目だよ⁉」

さゆが一気に蒼ざめた。

ああ、訂正しないと。

「別に理由なく殴ろうと思ってるわけじゃないよ」

「理由があっても殴っちゃ駄目だよ! 琴ちゃん女の子だよ⁉」