「さ、咲雪ちゃん~、咲雪ちゃんが優しいの、わかった気がする~」

「ど、どうしたのっ?」

ボロボロ泣く琴を見て、さゆが慌てている。

……琴ってこんな情緒不安定だったっけ? さゆのご家族がいい人揃いなのは俺も同意だけど……。

「琴も手ぇ合わせる~。咲雪ちゃんと咲雪ちゃんのお母さんを存在させてくれてありがとうございますって言う~」

「存在⁉ スケール大きすぎるよ!」

……ありがたみが存在までぶち抜いたか。

どういう天井知らずなんだろうか、琴は。

言葉通り、琴は泣きながらお線香をあげて手を合わせていた。

「……高校で琴に話しかけてくれたの、咲雪ちゃんだけだった。咲雪ちゃんがいなかったら、琴また……」

……入学当初に話しかけていたはずの俺はカウントされていなかった。

それはいいけど、なんかさっきから琴の方がさゆを大事にしてるみたいで腹立って来た。

「おにーさん、苛立ちが顔に出てますよー」

巽がにやにやしながら、俺の肩に肘を置いて頬をつついてきた。

……まあなんだ。俺も、巽ほど仲良くなれた奴はいないから、さゆの存在が大きい琴の言いたいことがわからないわけでもない。

「あれか? 三科に苛立ってんの?」

うん。

「……俺のがさゆと仲いい」

そこは譲れない。琴なんかにとられてたまるか。

さゆと幼馴染で、俺より仲のいい(かもしれない)巽は、けれどそんなところで張り合ってこない。ため息はつかれたけど。

「はいはい。お前らの仲のよさに敵う奴いねーから安心しろって。一緒に住むほどって相当だろ」

俺も巽にだけは、さゆとの同居のことは話してある。

……そうは言ってくれても、さゆには相変らず学校では話しかけられないし、『さゆ』って呼ぶのも出来ないし。

……あー、自分から提案したこととはいえ、人前でさゆって呼んで他の奴に見せたくないー。

「もしもーし。おにーさん、たぶん言っちゃいけないことが口に出てますよー」

「え……」

巽を見ると、クスクス笑いを噛み殺していた。

「女子たちには聞こえてねーと思うけど。あ、そんな瞳で見るなって。俺は咲雪とは幼馴染の古馴染ってだけだから。お前と三科みてなーなもんじゃん?」