「あ、そうだ咲雪。おじい様とおばあ様にお線香あげてもいい?」
急に、巽がそんなことを言いだした。
巽のことだから、空気を変えるために言ってくれたんだろう。
「あ、うんぜひぜひー」
さゆが立ち上がると、巽が相馬と琴も促した。
廊下を挟んだ向かいの和室に、この家の神棚や仏壇がある。
俺も、毎朝手を合わせている。というのも、
「おじいちゃん、大学の先生だったんだ。お母さんは私がいるってわかっても、相手は結婚する気がなくて。未婚の母になる一人娘がいるなんておじいちゃんの評判にキズをつけるからって、実家に帰らなかったの」
さゆも、琴にも知られる覚悟を決めたのだろう。
相馬がどこまで知っているのかは知らんけど。
咲雪のおじいさんとおばあさんの写真が並んだお仏壇。
おじいさんは厳格そうな怖い雰囲気も感じられる人で、おばあさんはさゆと小雪さんに似た雰囲気の、柔和な顔立ちの人。
「おじいちゃんとおばあちゃんは、何度も戻るように言ってたみたいだけど、お母さん頑固だから。んでもおじいちゃんたちにとったら可愛い一人娘には変わりないから、せめてずっと残せるものを、って、住んでたこの家をリフォームしてくれてたんだって。昔の家は知らないけど、写真で見る限り古民家? ていう感じだった」
その写真は俺も見せてもらったことがある。
おばあさんと、学生時代の小雪さんが写っているものが多かった。
おじいさんが撮ったものがほとんどのようで、おじいさんも一緒に写っているものは少なかった。
おじいさんが、奥さんと娘をどれだけ大事に思っていたかがよくわかる写真だった。
「私が五歳になる前におばあちゃんが病気で病院生活することになって、そこでやっとお母さん、私を連れて実家に帰ったの。おばあちゃんもおじいちゃんも、すっごく穏やかで優しい人だった。おじいちゃんは割と強面だったけど。お母さんが帰って来たの、すっごく喜んでくれてたの、憶えてる。……だから、お母さんは帰ってこられなかったんだと思う」
小雪さんは、一人でさゆを育てていく覚悟を決めていた。俺の母さんと同様に。
「優しい人たちだから、心配や迷惑をかけたくなくて。でも、おばあちゃんは入院して一年くらいで亡くなっちゃって、おじいちゃんもその一年後に……。だから今、晃くんや奏子さん――晃くんのお母さんともこうしていられるのって、おじいちゃんとおばあちゃんのおかげなんだ。……って、琴ちゃん⁉」
さゆの話を聞いて、琴がすげー泣いてた。



