「さゆ、茶器足すか」
「うん」
さゆを促して、二人で一度キッチンへ入る。
その間に、相馬頼んだと念を送っておく。
相馬が一人がけのソファにいて、巽に示したのは二人掛けソファ。
一度使った茶器は下げて新しいのを持って行くと、「琴ちゃんもそっち座っちゃってね」と、さゆがファインプレー。
琴を巽の隣に誘導した。
もしかして、実はさゆも、琴が巽を好きなこと、気づいている……?
さゆは、俺と隣り合ってラグに直接座った。
「藤沢って咲雪の――女子の家に一人で行くのとか平気なタイプなのか?」
相馬の問いかけに、巽は少し考えるように中空を見つめてから話し出した。
「……友達っていう以前に、家同士が関わりあるんだ。だから俺からしたら、『咲雪の家』って言うよりは、『司の家』って感覚が強いな」
「司の家?」
相馬がクエスチョンマークを浮かべると、さゆが補足した。
「簡単に言うと、ずーっと仲が悪かったの、ご先祖様代々ね」
「それを、咲雪のおじい様が自分の代で和解に導いてくれて、今俺は咲雪と堂々と友達って言える、ってとこかな」
「ほー? なんか難しい話だな……。な、琴」
「は、はいっ⁉ そ、そうだね⁉」
……こいつ、今の話聞いてねえな? 普段さゆも巽も公には話さないことを話したというのに。
「あ、あとさ雪村。さっき琴が、『前の苗字』とか言ってたけど、親、離婚とか再婚とかしてんの? ―――」
―――。ティーカップを持ったまま、一瞬固まってしまった。
「凛ちゃん」
答えられなかった俺に代わって遮ったのは、さゆだった。
「凛ちゃん、それ以上は駄目だよ」
……さゆの声は、とても穏やかだった。
「さ――」
「凛ちゃん」
言いさした相馬を、さゆが静かな響きで、再び遮る。
「あ……うん、ごめん」
重ねて言われて、相馬はバツが悪そうな顔になってすぐに引いた。
……かばわれた俺は、またさゆに抱き付きたくなった。また……さゆに護られた。