「だろーな。お邪魔しまーす」
巽も割と勝手知ったるさゆの家。躊躇うことなくあがってくる。
「ふ、藤沢くんっ」
「はい?」
それまで固まっていた琴が、意を決したような大声で呼んだ。
ふと視線を感じて相馬を見ると、相馬もソファから立ち上がって玄関が見える場所でニヤニヤしていた。
……相馬は知っているのか。さゆだけ知らんのか。
「あ、甘いの好きですかっ?」
さっきさゆが答えただろーが、という質問をぶつける琴。
だけど、さゆに気分を害した様子はない。
さゆ……少しだけ、敏感になろうな?
「うん、好きですよ」
「さ、咲雪ちゃんと作ったお菓子もあるから……っ、あの、よかったら……っ」
「ほんと? ぜひいただくね」
笑顔で応じる巽。
……巽は琴の気持ち、わかってんのかな。
まあ、関わったら関わるだけ琴に睨まれそうだから、特に言わんでおこう。
「晃―。お前両手に花状態じゃん」
リビングに入って来た巽がそんなことを言った。
……どこが? さゆ以外まともなのいねーと思うんだけど。
「巽、さっきばれたから言うんだけど、琴と俺、小学校が一時期一緒だった、顔見知り」
「こと?」
「三科の名前。小学生だから、前は下の名前で呼んでた」
「ん、あー……了解。なんとなくわかった。三科―、それって晃と顔見知りだったって知られたくないってことでいいの?」
「藤沢くん超能力者⁉ その通りです!」
うん、巽の理解の早さは俺も毎回驚く。
あと、琴が荒れていたことは隠して置こう。なんとなく。
「藤沢―、まあここにでも座れよ」
二人掛けのソファを示して、まるで家主のようなことを言う相馬。
ちらっとこちらを見て来たのは、俺も企みに乗れってことだろう。
「相馬と三科がやたら菓子買って来たんだ」
「こんな天気だからさ、家に一人の咲雪を盛り上げてやろうと思って来たら雪村もいたわけよ」
「んで、突撃されて咲雪との同居もばれたってとこか。じゃあ俺もお邪魔しまーす」
理解の早すぎる親友よ。