本当に。
さゆは恋愛どうのを放棄していると思っていたけど、友達の目線からすれば、いつ彼氏が出来てもおかしくないってことか……? 俺の返事は琴の怒りに油を注いだようだ。
「ばかじゃないの⁉ 咲雪ちゃんみたい可愛くて頭もいい性格もいい子だったら引く手あまたなんだからね⁉」
それは大いに肯ける。
「うん、さゆ、いい子だよな」
「そこかい! あんたね~、
「琴ちゃん? どうしたの? また晃くんが何か言ったの?」
琴とのやり取りがいつの間にか大声になっていたようで、さゆが心配そうな顔で近づいてきた。
さっと笑顔をさゆに向ける琴。
いや、二重人格かこいつは。
「全然そんなことないよ。このうつけに喝入れてただけだから」
うつけ……。
今更琴になんて言われても気にしないけど、よくもそう、けなし言葉が出てくるな。
さゆは、「そう?」と怪訝そうな顔をしながらも、俺から反論することもなかったから、それ以上は訊いてこなかった。
そして俺は琴がさゆに一方的にいちゃついているのを、終始見学……。なんだこれ。イライラする。いやがらせか? ……っ! 琴の奴、巽を好きだと言って置きながらまさかさゆにまで……⁉ こいつの魔の手からさゆを護らないと……!(巽は自分でどうにか出来るから気にしない)
――俺は琴の抹殺方法を考えながら、そしてさゆと琴が作った菓子が出来上がった頃、またチャイムが鳴った。
「こ――三科、さゆと一緒に迎えてやって」
巽だろうと推測をつけて言うけれど、決して琴のことを応援しているわけじゃない。
巽と琴の、友達と言えるかも怪しいクラスメイト程度の現在の関係性と、琴の巽に対する挙動不審を考えると、巽の方がパワーバランスが上、イコール拒絶も出来るということを鑑みてのいやがらせ返しだ。
素直なさゆは特に疑問もないようで、「はーい」と玄関へ向かった。
琴はぎこちない動作(右手と右足が一緒に出ている。古典すぎる)で、さゆのあとについて行った。
電話で呼んだ手前、俺も玄関へ顔をのぞかせる。
「よー咲雪、三科。晃も。俺も来ちゃってよかったの?」
スポーツバッグを肩にかけたジャージ姿の巽が、爽やかな笑顔を見せていた。
部活終わりで暑いのか、半袖だ。
ちらっと俺の前方にいる琴を見ると、固まっていた。
「晃くんが男子一人じゃ居づらいからって」
「悪いな。急に」
俺からも言うと、巽は苦笑して見せた。