ああ……そういう。ナメクジを見る目、再び。

まあ、俺の答えは決まっている。

「俺、そういうの無理」

「無理? どういうこと」

端的な答えでは理由までわからなかったようで、琴は軽く首を傾げた。

「好きとか付き合うとか、考えるの面倒」

「………」

答えると、琴はやたら湿った瞳で睨んできた。

……ため息がてら詳細を話す。

「今は、さゆといるのが一番ラク。勉強とか母さんたちの会社の手伝いとかすることあるし、そういうの考えてる余裕ない」

……本音を言うと、もっと別の理由だけど。琴に話すような内容でもないしな。

琴は、少し肩を落とした。落胆した、というよりは、呆れたって感じだ。

「咲雪ちゃんが一番ラク、ねえ……」

「さゆは俺のこと全部知ってる。それでも、そこにいてくれる」

全部知っていて、さっきみたいに抱きしめ返してくれる。

あの優しくて強い腕を、失いたくない。

「……何にも、代えられない存在」

気づけば、琴に言おうと思っていなかったことまで口にしていた。

さゆとは友達って感じじゃないし、でも付き合ってるわけじゃないし、強いて言うなら家族が一番近いかもしれないけど、母さんとも小雪さんとも存在している場所が違う。

一人だけ、特別な場所にいる。とても綺麗な場所に。

「……言っとくけど咲雪ちゃん、男子に人気あるからね」

「知ってる。よく口説かれてるの見る」

やたらとさゆに声をかけようとしている奴もいるし、野郎どもの集まりではさゆの話題はよく出る。

ただ、完璧存在な巽の幼馴染って知られているから、巽に敵うと思うほどの奴は少ないらしく、告白するに至る奴は極少数。

さゆはさゆで、恋愛に関してはかなり幼い。

……だから、安心していたのかもしれない。続く琴の言葉に動揺するくらいには。

「晃が付き合う気とかないとか言ってる間に、誰かと付き合っちゃうかもなんだからね」

「え………」

付き合う? さゆが?

「なに、その考えてなかったー、みたいな顔は」

「……考えてなかった」