……そういうことがわからな過ぎるさゆの発言に、琴は一瞬固まった。逆だよ、さゆ。

「三科、巽の隣に座らせてやるから、それで機嫌直してくれ」

「晃くんどういう嫌がらせ⁉」

怒られた。

「さ、咲雪ちゃん全然嫌がらせじゃないから大丈夫!」

頬を赤らめた琴が慌てて割って入って来た。

……ここまで言われて意味のわからないさゆは幼い……んだろうか。

それとも、完全にシャットアウトしているだけなのだろうか。

「咲雪―、お湯って勝手に使っていいー?」

「いいよー。ケトルに入ってるからー」

リビングから相馬の声が飛んできてさゆが応じている隙に、琴がまた睨んで来た。

「なんで晃にはバレてるの!」

「琴がわかりやすいからだろ」

ああも顔と声に出てりゃあな。琴はじと目になる。

「反対とかする気?」

反対? って、琴が巽を好きでいることをか?

「しないけど。なんで?」

いくらナメクジ扱いされている奴だからって、誰かを好きになるのは自由だと思うし、報復に邪魔しようとかは思わない。

けれど琴は俺の言葉を素直に信じる気はないようで、どんどん目を細めていく。

「……藤沢くんって晃の親友じゃん。琴みたいなヤンキーあがりを近づけたくないとかあるんじゃないの?」

……そういう考えもあるか。

琴はヤンキーをきっぱりやめたみたいだけど、琴にとっては黒歴史になっているってことか。

琴の過去を知る者として、巽の親友として、俺に言えることは……

「巽いい奴だから大丈夫だと思う」

「……どういう意味?」

琴が、今度は胡乱な目で見て来る。

「巽はいい奴だから、琴のことも否定しないと思うってこと」

巽は複雑な家柄だけど、本人は竹を割ったようなサッパリした性格で、いい奴のかたまりみたいな奴だ。

琴は両手のこぶしを握って、肩を震わせ出した。

「~~~だから好きなの! はい、言ったよ」

「……うん?」

だからどうした。

「晃もいい加減吐きなさいよ。好きな子くらいいるんでしょ?」