通話を終えスマホ片手にリビングに戻ると、相馬一人になっていた。
「あ、おかえりー晃くん」
「……相馬、それやめて」
相馬に『晃くん』呼びされる理由がわからない。
「お菓子食べるの? 名前で呼ぶの?」
菓子を食べているのは別に構わない。
「……名前。さゆは?」
「あちら」
相馬が手のひらを上に向けて示したのはキッチンの方。
さゆにエプロンのひもを結んでもらってニコニコしていた琴が、俺が見るなり睨んで来た。
……なに始める気だ?
「さゆー」
呼びかけると、ふっとさゆが振り向いた。
「あ、巽はなんて?」
「今日は昼で部活終わるって言ってたから、それ終わったら来ると思う」
「不在着信?」
「ん。なんか作んの?」
「晃は立ち入り禁止!」
……おい。
「……俺、どっちで呼べばいいの? 三科? 琴?」
これは琴から振って来たネタだよな?
「琴も雪村って呼べばよかったね! 三科って呼んで!」
「はいはい……んで、さゆは何するの? 三科は関係なく」
「どういう無視の仕方だこの野郎!」
「琴ちゃん落ち着いて! 晃くん、琴ちゃんとお菓子作ってるから、お仕事の続きしてていいよ?」
「なら、俺も手伝う」
「えー、こう――じゃなくて、雪村くんお菓子作り趣味なのぉ?」
気味悪い発音するんじゃねえ。三枚おろしにすんぞ。
「琴ちゃん、晃くんは家事全般花丸だよ」
……わざとらしくにやにやする琴は相変らずむかつくけど、さゆがフォローしてくれたのが嬉しかった。
何故かさゆが偉そうだったけど。
「……ふーん」
琴、あからさまに機嫌悪くしたな。気にしないけど。