なんとなく自分でも憶えのある晃くんの異常に、抵抗はしないでおいた。

「雷、駄目なんだ……。父親が暴れるときの、音と、似てて……」

あ……。

……すがってきた晃くんの腕を、無理に振りほどかないでよかった……。

私は、晃くんの頭を抱きしめるように腕を廻した。

出来たら晃くんの耳をふさぎたかったけど、隙間なく抱き付いてきているからちょっと無理だった。

「そっか。いいよ、いつまででも、こうしてて」

晃くんの不安が少しでもなくなったら……と、言葉にした。

……うん、と晃くんの小さな声が聞こえた。

私のお母さんは結婚しないで私を産んだけど、晃くんの家は両親が離婚している。

実の父親ってのが、普段はいい人なんだけど、すごい酒乱で、お酒が入ると晃くんや奏子さんに暴力を振るっていたそうだ。

普通にしていると問題がない人に見えるから警察の動きも鈍くて、女性をサポートする系の支援団体の援助を借りて、やっと離婚出来たって聞いた。

晃くんは、今も怖いんだ……。

また、ピカッと光ったのが見えた。

位置的にはまだまだ遠そうだけど……。

……雷、こっちに近づいてきているみたい。

晃くん、私なんか全然聞こえないくらい遠い音でも、捉えて拒絶反応出ちゃうのに……。よしっ。

「ねえ、晃くん。私が一方的に喋るから、聞いてるだけでいいから、無理に喋ろうとしなくていいからね? えっとね、えーっとね……そうだ! 巽の恥ずかしい話でもしてあげよう! 十年以上も一緒だったから、晃くんの知らないヤツの弱みも握ってますぞ」

わざと茶化すように言って、小学校時代の思い出話を始める。

晃くんの意識が、少しでも雷の音から逸れたらいいな、と願いながら。

「うちの小学校、四年生から部活が始まるんだけど、バスケ部と陸上部とサッカー部の三つなのね。んで、学年で一番運動神経がいい巽の取り合いが始まってね。巽、最初は三つ掛け持ちしてたんだ。それなのにバスケ部ではレギュラーになって、サッカー部でもメンバー入りして、陸上部では短距離で県大会まで出たんだよ。んで中学ではバスケ一本にして、すぐにレギュラー入りしたんだよね」

「……さゆ、それ、巽の自慢話になってる」

「え? あ、ほんとだ。あいつの弱み……ないな! 巽カンペキだな!」

自分でオチをつけられず叫んでしまうと、晃くんがふっと笑う気配があった。

「さゆ、巽のこと好きだよな」

あ、晃くんの声が柔らかくなってる……。

自分の肩から少し力が抜けた気がした。

「まー保育園から一緒の幼馴染みたいなものだからね。好きか嫌いかって言ったら好きかな」