「置いておいていいよー」
「洗う。さゆは今忙しいんだから」
私と話すときはお決まりになった、苦笑交じりのしゃべり方。
お母さんと二人暮らしが長い晃くんは、基本家事万能だ。
そっか、と私は受けて、流しにいる晃くんの隣で、おかずをお鍋で煮込み中。
あ、そうだ。
「今朝どっちも自力で起きたから、起こすのどうのはやんなくてもよくないかな?」
この、秘密の同居は二日目。
初日である昨日、お母さんと奏子さんを空港で見送って、タイミングをずらして帰って来てから、二人でルールを決めた。
ごはん作りは分担するとか、そういうこと。
で、変えた方がいいことは都度話していこう、と。
昨日話した中で、朝、起きて来なかった方を起こしに行く、のは仮案だった。
私が起きた時点で下の階に人の気配がなかったから、じゃあ晃くんを起こそう、と、昨夜のうちに用意しておいたフライパンとおたまを持って自分の部屋を出たんだ。
そしたら同じタイミングで起きて来た、という経緯。
「そうだな。さゆの起こし方カゲキそうだし」
……そうかな。お母さんはあのくらいしないと起きないときがあるんだけど……。
「ニワトリが鳴く声のがよかった?」
「鶏肉煮ながら言うセリフじゃない」
ありゃ。言ってもうち、ニワトリは飼ってないんだよなあ。
「今日は鶏肉とレンコンの煮物ですよ」
「美味そう」
ありがとう。安定の茶色いごはんだけど。
「あとはどうかな? あ。お風呂、先に入るのは交互にしない? 昨日話し忘れてた」
「いいよ。じゃあ今日はさゆ、先。昨日は俺が先だったから」
「洗濯が悩みどころなんだけど……」
「? なんで?」
私の懸念に、本気で首を傾げる様子の晃くん。いや……ね?
「だってさ……」
「うん?」
……ここまで言ってもわからないようで、続きを促してきた。仕方ない。言おう。
「…………下着とかあんじゃん」
……覚悟を決めたのに、言うまで間が出来てしまった……。
「……ああ」
そして晃くんの鈍い反応……。