晃くんが、私より遅れて階段をあがってきた。いつもの不愛想な様子で。

「あ、ごめんなさい」

「……司じゃない」

私が謝ると、それまで固まっていた男子を睨みつけた。晃くん? どうした?

「あ、悪い、雪村……」

「どうでもいいけど。通っていい?」

「あ、ああ……」

道を開けた男子に、晃くんは追撃を喰らわせた。

「さっさとどっか行って」

私には背中を向けていたから晃くんがどんな顔をしているのかわからなかったけど、男子はびくっと肩を跳ねさせてから、「じゃ、じゃあ司さんまた!」と言って、階段を下りて行った。「また」と言われても……誰だったんだろ。中学が一緒の人じゃなかったし……と考えていると、

「……司も、友達待ってんじゃない?」

「あ、そうだっ。ありがとっ」

晃くんに促されて、さっさか階段をあがった。

「……なんだあいつ。胸くそ悪い」

晃くんが、もう誰もいない階段下を睨んでいることも知らず。



+++



「………」

「あ、晃くんおかりなさーい」

「……ただいま?」

私より遅れて、晃くんが帰って来た。

ガチャッと鍵の開く音がしたから出てみたら晃くんで、やっぱり疑問符つきの返事だった。

「今日、大丈夫だったか?」

お夕飯を作っている途中だった私がキッチンに戻ると、晃くんがダイニングテーブルの椅子に鞄を置いて、私の方へやってきた。

「なんもなかったよ? 晃くん、手洗いうがい」

「……了解」

晃くんは洗面室へ消えていった。言わなくてもわかっていると思うけど、帰ってすぐの優先事項だから、一応声掛けを。

洗面室から戻った晃くんが、今度は鞄からお弁当箱を出してキッチンへ来た。