「へ? 別に晃くんと巽は競ってることとかないと思いますけど……ね? 晃くん」
晃くんの方に顔を向けると、晃くんも首を傾げていた。
「巽を蹴落としたいとか思ったこともないです」
「いや、そういう感じじゃなくてさ……。ま、この話はいっか。そうだ。ここ、普段からいるの私だけだから、気軽に遊びにおいで」
あでやかなのに、どこか朗らかな厳島先生に言われて、肩の力が抜けたのを感じた。
ずっと秘密にしてきたこととはいえ、緊張していたみたいだ。
ごはんを食べ終えて、厳島先生にお礼を言ってから教師室を出た。晃くんとは扉の前で別れて、時間をずらして私が先に教室へ向かう。
この時間なら、凛ちゃんと琴ちゃんも教室に戻っているだろうと思って。
明日のお弁当は、まず中身を変えて……と考えながら階段をのぼっていると、踊り場で降りて来た男子にぶつかってよろけてしまった。
「あ、ごめ……大丈夫?」
ネクタイカラーが同じなその男子は咄嗟に支えようとしてくれたのか、腕を出してきた。
けど、そう衝撃も強くなかったから自分の足で踏ん張れた。
「こっちこそごめんなさい。大丈夫だよ」
軽く頭を下げてから、また教室へ向かおうとすると……
「あのっ、司さん、だよね?」
呼ばれて、階段を二段ほどあがっていた足を停めた。
「うん、そうだよ」
私のことを知っている人? 同じ学年だから顔くらい知られていてもおかしくないか。
「成績、すごいね。二位とか」
「あ、あはは、ありがとう?」
すごいのは晃くんの方だよ、と思うけど、晃くんとは友達ですらない体を装っているから名前を出すこともできない……。
「あのずっと訊きたかったことあるんだけど、いい?」
「? うん」
私に?
「……司さんって、彼氏、いる?」
「いないよ」
「え、……」
「彼氏なんていないし、いたことないよ?」
なぜか口を半開きにして固まってしまったその男子にどうしたものかと困っていると、
「……途中でなに固まってんの? 邪魔」