「なんとなく」

「……よくわかんないけど、私はいるけど自由にしていいよ」

……なんとなくが通じる晃くんがすごい。

「ありがとうございます。さゆ、椅子」

壁際に折りたたんであったパイプ椅子を開いて、晃くんが渡してくれた。

「んん? なんで二人してここで」

「さゆが面白いことしてバレそうなんでかくまってください」

「??? 雪村くん、更に意味わからんよ? 咲雪ちゃん、どういうこと?」

「あ、それは……」

こ、晃くん、鋭すぎる……! 私の不安を的中させてきた……⁉

「お弁当、私が作ったんですけど……同じの作っちゃって……」

「同じお弁当? ……ああ、そういうことか。雪村くん、そういうときは『面白いこと』じゃなくて『可愛いこと』って言うんだよ。二人とも、ゆっくり食べていきな」

厳島先生も理解が早い。そして可愛いことなんかじゃなくて間抜けなことです……。

晃くんから受け取ったパイプ椅子に座って、膝の上でお弁当の包みを開く。晃くんも、今朝私が渡したお弁当を開けている。うう……ごめんね、晃くん……巽との時間に水差しちゃって……。

「さゆ? なんでそんな悲壮な顔で飯食う。美味いよ」

ひ、悲壮なかお……。

「私のせいで晃くんに面倒かけちゃったし……巽と一緒だったのに、ごめんね?」

「巽は今日はバスケ部のミーティングだから、部活の奴らと一緒。さゆが面白いことしてなけりゃぼっちだ」

軽く笑いながらそう励ましてくれた晃くん。いい人すぎる……。

「おや、雪村くんはそんな風に笑うんだ?」

パソコンに向かっていた厳島先生がこっちを見て、眼鏡を押し上げた。

「晃くん、よく笑ってくれますよ」

ダウナーさが目立っている晃くんは、不愛想とかいつも仏頂面とか、中学校の頃から言われてきた。でも、笑顔を見せてくれるときだって多い。

「ほう? そういや咲雪ちゃん今、藤沢くんを名前呼びしたけど……元カレとか?」

元カレ⁉ ないないない。突然の誤解に、苦笑混じりに答える。

「違いますよ。巽とは保育園から一緒の昔なじみなんです。中学校では晃くんと大の仲良しになったから、学校以外でも割と接点あって」

「幼馴染ってやつか。……雪村くんのライバルは咲雪ちゃんじゃなくて藤沢くんだったのかな?」