「なにかありましたか!?」
二階の騒動は外にいても聞こえたようだ。近所に住んでいるルアンナさんが飛び込んできた。手には剣があって焦っているように見える。
どうやら襲撃があったと勘違いしているようだ。
「一緒に紅茶を飲みますか?」
「あれ、敵は……」
落ち着いているのが意外だったのだろう。ルアンナさんは戸惑っている。
キョロキョロと周囲を見て本当に敵はいないこと分かり剣を納めた。
「そんなのいません。レベッタさんが仲間と騒いでいるだけですよ」
茶葉の香りが立ち上る中、手に持っているカップの中を見る。濃いルビー色の液体が波打っていた。
一口飲むと、舌の上に広がる柔らかい温かみを感じ、微かに渋みがある。ミルクを入れたらマイルドな味わいになりそうだが、俺はこのままの方が好きだ。
紅茶の味をじっくりと味わってから、ルアンナさんを見る。
「一緒に飲みますか?」
「…………」
もう一度同じ提案をした。上に行って状況を確認するか、それとも俺の誘いに乗るか凄く悩んでいるようだ。
数秒の間沈黙が続き、ようやくルアンナさんが口を開く。
「飲みます」
どうやら俺のお誘いを選んでくれたようだ。ポットはまだ温かい。新しいカップを持ってくると、ルアンナさんが座っている席に置く。
ごくりと、つばを飲んだ音が聞こえた。
走ってきたから喉がカラカラなのか?
水分補給を提案した俺は、最高の気づかいをした、なんて自画自賛していた。
「いただきます」
かすかに震える手でカップを持つとゆっくりと口を近づける。
「コレが男性の入れた紅茶……美味しい……」
味と性別は関係ない気が。まあ、満足してくれているのだから無粋なことを言うのはやめておこう。俺も紅茶を飲む。
「私のものだーーーっ!」
「初手セクハラは許さないっ!」
「最初に出会ったからって、でかい顔するな! ゆずれ!」
醜い争いの声がここまで届いてくる。聞くに堪えない内容だ。彼女たちは恩人ではあるけど、もう少しだけ落ち着いてくれないかなと思ってしまう……いや、ムリか。俺がありのままを受けいられるよう、変わるしかないな。
「賑やかですね」
「退屈しない生活をさせてもらっています」
お互いに本音は言わずに、穏やかな会話をしている。大人だ。大人っぽい。
俺もこういった話ができるぐらいには成長したようだ。
「実はスカーテ王女から、折を見てイオディプス君に話して欲しいことがあると命令を受けていたんです」
「内容を聞いても?」
ついにきたか。という気持ちが強い。王族が手厚い保護をしてくれるのだから、代わりに言うことを聞けなんて展開になるのは事前から予測していたことだ。
助けてもらうと決めていたときから覚悟はしていたので、よほどのことがない限りは受け入れようと考えている。
「もちろんです」
ルアンナさんはカップを静かに置くと話を続ける。
「冒険者として活動をしてください」
「いいんですか? 危険なお仕事ですよ?」
元々その予定ではあったが、まさかスカーテ王女も進めてくるとは。逆に止めてくると思っていたから、勝手に活動を始めようと思っていたぐらいだ。
狙いはなんだ?
「直接戦闘を女性達に任せれば、リスクはそう高くありません」
俺のスキル特性からしても支援に徹した方が良いので、合理的な判断だ。
どうせ王家から派遣された騎士や兵が遠くから監視しているだろうし、思っている以上に安全性は高いだろう。
「冒険者として安全に活動できるわけですね」
「その通りです。安全な場所からスキルを使い、戦いに慣れてください」
「なぜですか?」
「敵国に襲われたとき、イオディプス君のスキルが重要な役割を果たすからです」
スカーテ王女が、ナイテア王国は小さいと言っていたのを思いだした。他国との関係はよくしらないが、俺の力を頼りにしたくなるぐらいは微妙な立ち位置なのだろう。
一人なら逃げ出すことも考えたが、レベッタさんやヘイリーさん、その他知り合ったみんなを見捨てられるほど割り切った考えはできない。俺の力が助けになるなら、協力しても良いとは思っている。
「それにスキルは使えば使うほど効果が増すことわかっています。世間一般的には熟練度、なんて呼ばれています。自分を守るためにも冒険者活動をする選択は悪くないと思いますよ」
スキルブースターの能力を磨けば助けられる人が増える。それは間違いない。ある程度の安全も保証されているようなので、今回の話を断る理由が見つからなかった。
「わかりました。レベッタさんたちと冒険者として活動します」
「ありがとうございます」
交渉がまとまってほっとしたのだろうか、ルアンナさんから笑みがこぼれる。
「依頼は適当に選んでも良いのですか?」
「かまいません。ごく普通の冒険者として活動して欲しいので、派手な行動はしないで下さいね」
「もちろんですよ」
ベテラン冒険者であるレベッタさんたちの指示に従っていれば、目立つようなことにはならないだろう。
彼女たちは俺絡みでは暴走しがちだが、何もなければ優秀……だよな……?
疑問が浮かんだので過去を振り返り、思い出すことをやめる。戦闘能力は高いんだから何とかなるだろ。
「男性は私たちの話なんて無視することが多いんですが、イオディプス君は優しいですね」
「俺のことを思ってアドバイスしてくれているんです。話を聞くのは当然ですよ」
だからといって全てに従うわけじゃない。ちゃんと考えて判断することが重要なのだ。
盲信はしてはいけない。だが、疑ってばかりでは前に進めない。
大切なことは、楽しく自由な日々を過ごすために努力することなのだから。
二階の騒動は外にいても聞こえたようだ。近所に住んでいるルアンナさんが飛び込んできた。手には剣があって焦っているように見える。
どうやら襲撃があったと勘違いしているようだ。
「一緒に紅茶を飲みますか?」
「あれ、敵は……」
落ち着いているのが意外だったのだろう。ルアンナさんは戸惑っている。
キョロキョロと周囲を見て本当に敵はいないこと分かり剣を納めた。
「そんなのいません。レベッタさんが仲間と騒いでいるだけですよ」
茶葉の香りが立ち上る中、手に持っているカップの中を見る。濃いルビー色の液体が波打っていた。
一口飲むと、舌の上に広がる柔らかい温かみを感じ、微かに渋みがある。ミルクを入れたらマイルドな味わいになりそうだが、俺はこのままの方が好きだ。
紅茶の味をじっくりと味わってから、ルアンナさんを見る。
「一緒に飲みますか?」
「…………」
もう一度同じ提案をした。上に行って状況を確認するか、それとも俺の誘いに乗るか凄く悩んでいるようだ。
数秒の間沈黙が続き、ようやくルアンナさんが口を開く。
「飲みます」
どうやら俺のお誘いを選んでくれたようだ。ポットはまだ温かい。新しいカップを持ってくると、ルアンナさんが座っている席に置く。
ごくりと、つばを飲んだ音が聞こえた。
走ってきたから喉がカラカラなのか?
水分補給を提案した俺は、最高の気づかいをした、なんて自画自賛していた。
「いただきます」
かすかに震える手でカップを持つとゆっくりと口を近づける。
「コレが男性の入れた紅茶……美味しい……」
味と性別は関係ない気が。まあ、満足してくれているのだから無粋なことを言うのはやめておこう。俺も紅茶を飲む。
「私のものだーーーっ!」
「初手セクハラは許さないっ!」
「最初に出会ったからって、でかい顔するな! ゆずれ!」
醜い争いの声がここまで届いてくる。聞くに堪えない内容だ。彼女たちは恩人ではあるけど、もう少しだけ落ち着いてくれないかなと思ってしまう……いや、ムリか。俺がありのままを受けいられるよう、変わるしかないな。
「賑やかですね」
「退屈しない生活をさせてもらっています」
お互いに本音は言わずに、穏やかな会話をしている。大人だ。大人っぽい。
俺もこういった話ができるぐらいには成長したようだ。
「実はスカーテ王女から、折を見てイオディプス君に話して欲しいことがあると命令を受けていたんです」
「内容を聞いても?」
ついにきたか。という気持ちが強い。王族が手厚い保護をしてくれるのだから、代わりに言うことを聞けなんて展開になるのは事前から予測していたことだ。
助けてもらうと決めていたときから覚悟はしていたので、よほどのことがない限りは受け入れようと考えている。
「もちろんです」
ルアンナさんはカップを静かに置くと話を続ける。
「冒険者として活動をしてください」
「いいんですか? 危険なお仕事ですよ?」
元々その予定ではあったが、まさかスカーテ王女も進めてくるとは。逆に止めてくると思っていたから、勝手に活動を始めようと思っていたぐらいだ。
狙いはなんだ?
「直接戦闘を女性達に任せれば、リスクはそう高くありません」
俺のスキル特性からしても支援に徹した方が良いので、合理的な判断だ。
どうせ王家から派遣された騎士や兵が遠くから監視しているだろうし、思っている以上に安全性は高いだろう。
「冒険者として安全に活動できるわけですね」
「その通りです。安全な場所からスキルを使い、戦いに慣れてください」
「なぜですか?」
「敵国に襲われたとき、イオディプス君のスキルが重要な役割を果たすからです」
スカーテ王女が、ナイテア王国は小さいと言っていたのを思いだした。他国との関係はよくしらないが、俺の力を頼りにしたくなるぐらいは微妙な立ち位置なのだろう。
一人なら逃げ出すことも考えたが、レベッタさんやヘイリーさん、その他知り合ったみんなを見捨てられるほど割り切った考えはできない。俺の力が助けになるなら、協力しても良いとは思っている。
「それにスキルは使えば使うほど効果が増すことわかっています。世間一般的には熟練度、なんて呼ばれています。自分を守るためにも冒険者活動をする選択は悪くないと思いますよ」
スキルブースターの能力を磨けば助けられる人が増える。それは間違いない。ある程度の安全も保証されているようなので、今回の話を断る理由が見つからなかった。
「わかりました。レベッタさんたちと冒険者として活動します」
「ありがとうございます」
交渉がまとまってほっとしたのだろうか、ルアンナさんから笑みがこぼれる。
「依頼は適当に選んでも良いのですか?」
「かまいません。ごく普通の冒険者として活動して欲しいので、派手な行動はしないで下さいね」
「もちろんですよ」
ベテラン冒険者であるレベッタさんたちの指示に従っていれば、目立つようなことにはならないだろう。
彼女たちは俺絡みでは暴走しがちだが、何もなければ優秀……だよな……?
疑問が浮かんだので過去を振り返り、思い出すことをやめる。戦闘能力は高いんだから何とかなるだろ。
「男性は私たちの話なんて無視することが多いんですが、イオディプス君は優しいですね」
「俺のことを思ってアドバイスしてくれているんです。話を聞くのは当然ですよ」
だからといって全てに従うわけじゃない。ちゃんと考えて判断することが重要なのだ。
盲信はしてはいけない。だが、疑ってばかりでは前に進めない。
大切なことは、楽しく自由な日々を過ごすために努力することなのだから。