「い、痛いです」
俺の胸に顔をうずめてスーハーと息を深く吸って吐いている。レベッタさんに声は届いていないようだ。
骨のきしみが強くなり、痛みが激しくなる。脂汗が浮かんで顔がゆがんでいると自覚できた。
本当にこのままじゃ全身骨折コースだぞ!
「また馬鹿が暴走している」
助けるため動いてくれたのは、ドワーフのメヌさんだった。レベッタさんの腕を握りつぶすほどの勢いで掴んだ。拘束が弱まる。幼い見た目とは反して力強いみたいだな。
隙を見て逃げ出すと数歩下がって膝をつく。
筋肉はあるのに抵抗できなかった。
骨はまだ痛みを発している。
男は体を鍛えても女性には勝てない。頭ではなく体で理解させられてしまったようだ。俺は守る立場ではなく、守られる立場になってしまったんだな。
「痛くない?」
俺の腕をさすりながらヘイリーさんが声をかけてくれた。
「大丈夫です。それよりレベッタさんが……」
「自業自得。傷つけた罰。気にしない」
メヌさんに頭をつかまれて振り回されているんだが。あれ、本当に大丈夫なのだろうか。
「でもやりすぎじゃ」
「そんなことない。レベッタじゃなければ斬り殺してた」
殺意を感じたので俺は何も言えなくなってしまった。
この世界の常識と照らし合わせれば、先ほどの行為は許されないだろう。重犯罪者として処分される可能性すらある。
男の中でもさらに貴重な俺を傷つけるとは、それほどの大きな問題となるのだ。
「あのー……」
ピンクの生地で花の刺繍を施されたハンカチが目の間に出された。持ち主は竜人のアグラエルさんだ。
あえてだろうか。髪の毛で顔が隠されている。
「これ……使ってくださいっ!」
汗を拭けってことだろう。耳まで真っ赤にしながら言われてしまえば、断るなんてできない。勇気を出して親切にしてくれているのだから、その気持ちに応えるべきなのだ。
「ありがとうございます。アグラエルさんは優しいんですね」
「ひゃいっ!?」
ハンカチを受け取り、お礼を言ったら、ソファの後ろにまで移動して隠れてしまった。
どうしてこのような態度に出たのか疑問に感じる。
男性恐怖症であれば近づこうとしないだろう。憎しみなんてものは感じなかった。むしろ好意を感じたぐらいだ。
考えながらハンカチで額を拭いていると、アグラエルさんはソファから顔を半分出して俺を覗き見している。どうやら興味はあるようだ。
まさか、恥ずかしいから近寄れなかったのだろうか。
男の少ない世界なのだから異性に免疫のない女性がいても不思議ではない。最初に出会ったレベッタさんを筆頭に、男に対する恥じらいがなかったので気づけなかったが、冷静になって考えてみれば、むしろ当然の結論ともいえるだろう。
そうだよ、アグラエルさんの反応が一般的なんだよな……。
汗を拭き終わったハンカチを見る。
そのまま返すのは失礼だろう。
「洗って返しますね」
ソファの陰からアグラエルさんが勢いよく飛び出すと、俺が持っていたハンカチを奪い取り、二階へ駆け上がってしまった。
一瞬、何をされたのか分からなかったぞ。
引き留める時間なんてなかった。
「ちょっと話し合ってくる」
ずっと、俺の腕をさすってくれていたヘイリーさんも二階に行ってしまった。しばらくして天井からドタドタとした物音が聞こえてくる。
上で暴れる前に、目の前で起こっている暴力行為を止めてほしかったんだが……。
「やめて! 痛いって! メヌは腕力が強すぎるっっ!」
「男性の前で嘘を言うなっ!! 私の力は普通だ!」
ぶんぶんとレベッタさんを振り回している姿を見たら、どっちの言い分が正しいかなんて聞かなくてもわかる。
メヌさんは女性基準でも力が強いのだ。きっとドワーフという種族特性も関係しているのだろう。
なんて考察をしている状況じゃなかった! 早くレベッタさんを助けなければ!!
「もう止めてください!」
背後から忍び寄ってメヌさんの腕をつかんだ。
ぴたりと動きが止まって俺を見る。
「君を傷つけたんだよ? 許していいの?」
「ちょっと痛かったぐらいです。俺は気にしてないのでレベッタさんから手を放してくれませんか」
「女が暴力をふるったのに許すだなんて……本当に優しい。いい男」
なぜか俺への好感度が上がってしまったようだ。
メヌさんはレベッタさんを投げ捨てると抱きついてきた。珍しく彼女の方が小さいこともあって、顔が俺の腹ぐらいに当たっている。後ろに回された手が尻を撫でているのは偶然だと思うことにしておく。
「これから一緒に住んでくれるの?」
「みなさんが嫌じゃなければ」
「やったー!」
喜んだ勢いで担がれてしまった。
そのまま二階へ運ばれそうになったが、レベッタさんが止めてくれた。
「少し話し合いが必要だね。どっちに優先権があるか、教えてあげる」
「ふーん。望むところだよ」
メヌさんは俺を置くとレベッタさんと一緒に階段を上ってしまう。
二階がさらに騒がしくなった。
とてもじゃないが、俺が止められるとは思えない。むしろ、火に油を注いでしまう。
落ち着くまで時間をつぶすしかないか。
静かになるまでソファに座り、紅茶を飲みながら待つことにした。
俺の胸に顔をうずめてスーハーと息を深く吸って吐いている。レベッタさんに声は届いていないようだ。
骨のきしみが強くなり、痛みが激しくなる。脂汗が浮かんで顔がゆがんでいると自覚できた。
本当にこのままじゃ全身骨折コースだぞ!
「また馬鹿が暴走している」
助けるため動いてくれたのは、ドワーフのメヌさんだった。レベッタさんの腕を握りつぶすほどの勢いで掴んだ。拘束が弱まる。幼い見た目とは反して力強いみたいだな。
隙を見て逃げ出すと数歩下がって膝をつく。
筋肉はあるのに抵抗できなかった。
骨はまだ痛みを発している。
男は体を鍛えても女性には勝てない。頭ではなく体で理解させられてしまったようだ。俺は守る立場ではなく、守られる立場になってしまったんだな。
「痛くない?」
俺の腕をさすりながらヘイリーさんが声をかけてくれた。
「大丈夫です。それよりレベッタさんが……」
「自業自得。傷つけた罰。気にしない」
メヌさんに頭をつかまれて振り回されているんだが。あれ、本当に大丈夫なのだろうか。
「でもやりすぎじゃ」
「そんなことない。レベッタじゃなければ斬り殺してた」
殺意を感じたので俺は何も言えなくなってしまった。
この世界の常識と照らし合わせれば、先ほどの行為は許されないだろう。重犯罪者として処分される可能性すらある。
男の中でもさらに貴重な俺を傷つけるとは、それほどの大きな問題となるのだ。
「あのー……」
ピンクの生地で花の刺繍を施されたハンカチが目の間に出された。持ち主は竜人のアグラエルさんだ。
あえてだろうか。髪の毛で顔が隠されている。
「これ……使ってくださいっ!」
汗を拭けってことだろう。耳まで真っ赤にしながら言われてしまえば、断るなんてできない。勇気を出して親切にしてくれているのだから、その気持ちに応えるべきなのだ。
「ありがとうございます。アグラエルさんは優しいんですね」
「ひゃいっ!?」
ハンカチを受け取り、お礼を言ったら、ソファの後ろにまで移動して隠れてしまった。
どうしてこのような態度に出たのか疑問に感じる。
男性恐怖症であれば近づこうとしないだろう。憎しみなんてものは感じなかった。むしろ好意を感じたぐらいだ。
考えながらハンカチで額を拭いていると、アグラエルさんはソファから顔を半分出して俺を覗き見している。どうやら興味はあるようだ。
まさか、恥ずかしいから近寄れなかったのだろうか。
男の少ない世界なのだから異性に免疫のない女性がいても不思議ではない。最初に出会ったレベッタさんを筆頭に、男に対する恥じらいがなかったので気づけなかったが、冷静になって考えてみれば、むしろ当然の結論ともいえるだろう。
そうだよ、アグラエルさんの反応が一般的なんだよな……。
汗を拭き終わったハンカチを見る。
そのまま返すのは失礼だろう。
「洗って返しますね」
ソファの陰からアグラエルさんが勢いよく飛び出すと、俺が持っていたハンカチを奪い取り、二階へ駆け上がってしまった。
一瞬、何をされたのか分からなかったぞ。
引き留める時間なんてなかった。
「ちょっと話し合ってくる」
ずっと、俺の腕をさすってくれていたヘイリーさんも二階に行ってしまった。しばらくして天井からドタドタとした物音が聞こえてくる。
上で暴れる前に、目の前で起こっている暴力行為を止めてほしかったんだが……。
「やめて! 痛いって! メヌは腕力が強すぎるっっ!」
「男性の前で嘘を言うなっ!! 私の力は普通だ!」
ぶんぶんとレベッタさんを振り回している姿を見たら、どっちの言い分が正しいかなんて聞かなくてもわかる。
メヌさんは女性基準でも力が強いのだ。きっとドワーフという種族特性も関係しているのだろう。
なんて考察をしている状況じゃなかった! 早くレベッタさんを助けなければ!!
「もう止めてください!」
背後から忍び寄ってメヌさんの腕をつかんだ。
ぴたりと動きが止まって俺を見る。
「君を傷つけたんだよ? 許していいの?」
「ちょっと痛かったぐらいです。俺は気にしてないのでレベッタさんから手を放してくれませんか」
「女が暴力をふるったのに許すだなんて……本当に優しい。いい男」
なぜか俺への好感度が上がってしまったようだ。
メヌさんはレベッタさんを投げ捨てると抱きついてきた。珍しく彼女の方が小さいこともあって、顔が俺の腹ぐらいに当たっている。後ろに回された手が尻を撫でているのは偶然だと思うことにしておく。
「これから一緒に住んでくれるの?」
「みなさんが嫌じゃなければ」
「やったー!」
喜んだ勢いで担がれてしまった。
そのまま二階へ運ばれそうになったが、レベッタさんが止めてくれた。
「少し話し合いが必要だね。どっちに優先権があるか、教えてあげる」
「ふーん。望むところだよ」
メヌさんは俺を置くとレベッタさんと一緒に階段を上ってしまう。
二階がさらに騒がしくなった。
とてもじゃないが、俺が止められるとは思えない。むしろ、火に油を注いでしまう。
落ち着くまで時間をつぶすしかないか。
静かになるまでソファに座り、紅茶を飲みながら待つことにした。