ルアンナさんに案内されて馬車の前に立った。
四頭立てだ。客車は大きく数人入っても余裕はありそう。ベースは黒で金の装飾が施されている。天井の部分には王冠が衝いているし、ドアにはバラの紋章がある。知識のない俺でも、王族もしくは貴族の馬車だというのが一目でわかった。
……身分を隠す気ないだろッ!
特別扱いしたらよからぬ人に狙われるんじゃないかよッ!
と、この場で突っ込んだとしてもスカーテ王女には届かない。案内してくれる人に責任はないので我慢しよう。
ルアンナさんが俺から手を離してから客車のドアを開く。
室内は赤いソファや絨毯が敷かれていた。中に入って天井を見ると、半裸の男に群がる女性の絵がある。男には後光があって宗教画っぽい。
男が少ない影響もあって、崇める文化ができなのかもしれないな。
「待ってーーーーっ!」
暴走していたので放置した、レベッタさんとヘイリーさんが走ってきた。同行するはずだったのに置いて行かれると思っているのだろう。
俺はそんな冷たい人間じゃないぞ。
「お待ちください」
二人の前にルアンナさんが立った。
動きからして客車に入れたくなさそうである。
密室で一緒になったら何が起こるか俺ですら予想できないので、彼女の懸念は間違いなく正しい。
「どいて、邪魔」
ヘイリーさんが腰にぶら下げている剣の柄に手をかけた。レベッタさんも背中に手を回して、矢筒に触れている。敵意を隠そうとしていない。
なんで、こう、偉い人たちにケンカを売ろうとするんだ……。
「同行は許可しますが、貴方たちは私と御者台に乗ってもらいます。拒否するのであれば、国家反逆罪として処刑されると思いなさい」
思っていた以上に罪が大きい。それほど俺のことを大切にしたいという気持ちがあるんだろう。争いが始まったら取り返しのつかない事態になる。
恩人を重犯罪者にさせたくない。
今のうちに動くか。
「二人に手を出したら、俺は王女様と会いません」
「それは困りますっ!!」
ルアンナさんが振り返り、泣きそうな顔をしていた。
彼女の任務は俺を連れて行くことなんだから当然の反応だろう。
「だったら二人も客車に入れてください」
「……わかりました」
渋々といった感じで道を譲ると、レベッタさん、ヘイリーさんが入ってきた。
抱き付こうとしてきたので手を前に出して止める。
「王女様と会うんですから、浮ついた気持ちで同行されても困ります」
はっきりと言った方が良いだろと思っての発言だったのだが、少しやり過ぎてしまったみたいだ。
二人の目に涙が浮かび、流れ落ちた。
声は出さず静かに泣いている。初めて女性を泣かせてしまった。これじゃクソ親父と同じじゃないか。
罪悪感と自身への嫌悪感が膨れ上がり、落ち着かなくてじっとしていられない。
「ごめんなさい。言い過ぎました」
「ううん。私たちも調子に乗りすぎていた。ごめんなさい」
泣かしてしまったのに、レベッタさんに謝られてしまった。
「いや。今回は俺が悪くて……」
「それは違う。優しさにつけ込んだ私たちが悪かった。だから、それ以上謝らないで」
ヘイリーさんにまでそんなことを言われてしまえば、これ以上の発言は不可能だ。
口を閉ざしてしまう。
「羨ましい」
ぼそりと外から声が聞こえた。ルアンナさんが言ったようだ。俺たちのやりとりをずっと見ていたらしい。
一瞬だけ目は合ったが、何も言わずにドアを閉めると御者台に乗った。
すぐに馬車が動き出してガラガラと音を立てながら道を進む。道は整備されているので思っていたより振動は大きくない。
この体は三半規管が強いらしく、しばらくしても乗り物酔いする気配はなかった。
「王女様との謁見はイオ君だけになると思うから、私たちは応接室で待機しているね」
落ち着きを取り戻したのか、涙を拭ってからレベッタさんが教えてくれた。
昨晩、テレシアさんからも同じような話は聞いているので、一人で会う覚悟はできている。
「その場で襲われないように気をつけね」
「もちろんです」
心配するところがそこ!? と突っ込みたくなりつつも、素直に返事をした。
さすがに一国の王女が、男を襲うなんてことはしないだろう。
「本当? イオ君は抜けてるところが多いからなー。お姉さん心配だよ」
元気を取り戻したみたいで、軽口まで言えるようになったみたいだ。
「その通り。イオ君は、うっかりしすぎ。注意するように」
追撃されてしまった。ヘイリーさんまで、そんなことを思っているとは。
もしかして軽口ではなく、本当に頼りないと思われているのか!?
俺は年齢の割にとしっかりしていると思っていたんだが……。ちょっとショックである。
「わかりました。気をつけますね」
力強く返事をしても二人はジト目をしている。信じられていないみたいだ。
「これでも一人の男です。何があっても一人で解決できます。大丈夫ですから、信じてください」
ポンと胸を叩いて見せた。
二人の半のは変わらないどころか、ますます疑わしそうな目で見てくる。
「絶対に油断しないでね。無駄に優しくしちゃダメなんだから」
「あ、はい……」
最後にレベッタさんから忠告されてしまった。
そういえ母さんも、よく俺のことを心配していたな。見た目や性格も違う二人だけど、何故か姿がかぶって見えた。
四頭立てだ。客車は大きく数人入っても余裕はありそう。ベースは黒で金の装飾が施されている。天井の部分には王冠が衝いているし、ドアにはバラの紋章がある。知識のない俺でも、王族もしくは貴族の馬車だというのが一目でわかった。
……身分を隠す気ないだろッ!
特別扱いしたらよからぬ人に狙われるんじゃないかよッ!
と、この場で突っ込んだとしてもスカーテ王女には届かない。案内してくれる人に責任はないので我慢しよう。
ルアンナさんが俺から手を離してから客車のドアを開く。
室内は赤いソファや絨毯が敷かれていた。中に入って天井を見ると、半裸の男に群がる女性の絵がある。男には後光があって宗教画っぽい。
男が少ない影響もあって、崇める文化ができなのかもしれないな。
「待ってーーーーっ!」
暴走していたので放置した、レベッタさんとヘイリーさんが走ってきた。同行するはずだったのに置いて行かれると思っているのだろう。
俺はそんな冷たい人間じゃないぞ。
「お待ちください」
二人の前にルアンナさんが立った。
動きからして客車に入れたくなさそうである。
密室で一緒になったら何が起こるか俺ですら予想できないので、彼女の懸念は間違いなく正しい。
「どいて、邪魔」
ヘイリーさんが腰にぶら下げている剣の柄に手をかけた。レベッタさんも背中に手を回して、矢筒に触れている。敵意を隠そうとしていない。
なんで、こう、偉い人たちにケンカを売ろうとするんだ……。
「同行は許可しますが、貴方たちは私と御者台に乗ってもらいます。拒否するのであれば、国家反逆罪として処刑されると思いなさい」
思っていた以上に罪が大きい。それほど俺のことを大切にしたいという気持ちがあるんだろう。争いが始まったら取り返しのつかない事態になる。
恩人を重犯罪者にさせたくない。
今のうちに動くか。
「二人に手を出したら、俺は王女様と会いません」
「それは困りますっ!!」
ルアンナさんが振り返り、泣きそうな顔をしていた。
彼女の任務は俺を連れて行くことなんだから当然の反応だろう。
「だったら二人も客車に入れてください」
「……わかりました」
渋々といった感じで道を譲ると、レベッタさん、ヘイリーさんが入ってきた。
抱き付こうとしてきたので手を前に出して止める。
「王女様と会うんですから、浮ついた気持ちで同行されても困ります」
はっきりと言った方が良いだろと思っての発言だったのだが、少しやり過ぎてしまったみたいだ。
二人の目に涙が浮かび、流れ落ちた。
声は出さず静かに泣いている。初めて女性を泣かせてしまった。これじゃクソ親父と同じじゃないか。
罪悪感と自身への嫌悪感が膨れ上がり、落ち着かなくてじっとしていられない。
「ごめんなさい。言い過ぎました」
「ううん。私たちも調子に乗りすぎていた。ごめんなさい」
泣かしてしまったのに、レベッタさんに謝られてしまった。
「いや。今回は俺が悪くて……」
「それは違う。優しさにつけ込んだ私たちが悪かった。だから、それ以上謝らないで」
ヘイリーさんにまでそんなことを言われてしまえば、これ以上の発言は不可能だ。
口を閉ざしてしまう。
「羨ましい」
ぼそりと外から声が聞こえた。ルアンナさんが言ったようだ。俺たちのやりとりをずっと見ていたらしい。
一瞬だけ目は合ったが、何も言わずにドアを閉めると御者台に乗った。
すぐに馬車が動き出してガラガラと音を立てながら道を進む。道は整備されているので思っていたより振動は大きくない。
この体は三半規管が強いらしく、しばらくしても乗り物酔いする気配はなかった。
「王女様との謁見はイオ君だけになると思うから、私たちは応接室で待機しているね」
落ち着きを取り戻したのか、涙を拭ってからレベッタさんが教えてくれた。
昨晩、テレシアさんからも同じような話は聞いているので、一人で会う覚悟はできている。
「その場で襲われないように気をつけね」
「もちろんです」
心配するところがそこ!? と突っ込みたくなりつつも、素直に返事をした。
さすがに一国の王女が、男を襲うなんてことはしないだろう。
「本当? イオ君は抜けてるところが多いからなー。お姉さん心配だよ」
元気を取り戻したみたいで、軽口まで言えるようになったみたいだ。
「その通り。イオ君は、うっかりしすぎ。注意するように」
追撃されてしまった。ヘイリーさんまで、そんなことを思っているとは。
もしかして軽口ではなく、本当に頼りないと思われているのか!?
俺は年齢の割にとしっかりしていると思っていたんだが……。ちょっとショックである。
「わかりました。気をつけますね」
力強く返事をしても二人はジト目をしている。信じられていないみたいだ。
「これでも一人の男です。何があっても一人で解決できます。大丈夫ですから、信じてください」
ポンと胸を叩いて見せた。
二人の半のは変わらないどころか、ますます疑わしそうな目で見てくる。
「絶対に油断しないでね。無駄に優しくしちゃダメなんだから」
「あ、はい……」
最後にレベッタさんから忠告されてしまった。
そういえ母さんも、よく俺のことを心配していたな。見た目や性格も違う二人だけど、何故か姿がかぶって見えた。