帰宅途中に「逃げます?」と聞いてみたけど、二人は問題ないと自信ありげに言っていた。秘策、もしくは俺が知らない法の抜け道があるから安心しているのかもしれない。俺だけ逃げるわけにも行かず素直に家に戻ってしまった。
中に入ると一階にあるソファへダイブする。横になったまま動けない。足が疲れてもう立ちたくないのだ。
そんな俺を見つつ、レベッタさんとヘイリーさんは二階に上がって行った。部屋で武具を外すのだろう。彼女たちの方が疲れているはずなのに、そんな素振りは一切見せない。
これが体力の差か。
もし二人と一緒に冒険者活動をするのであれば、今のままだと足手まといになってしまいそうだ。命を賭けた仕事をするのだから準備に手は抜けない。先ずは標準的な体力を付けるところから始めよう。
明日からランニング開始だ。庭で剣を素振りするのも良いかも。木の棒を振るだけでも筋肉は鍛えられるだろ。
あの男がどんな動きをしてくるかわからないが、最悪の場合を考えれば戦う力は蓄えて損はないはず。
「お待たせーーっ! ご飯食べよう」
元気の塊でもあるレベッタさんが、階段を駆け下りると俺にダイブしてきた。
避けるなんてことはできず下敷きになってしまう。
「うっ」
肺から空気が一気に出てしまい、少し呼吸が止まってしまった。痛いより苦しい。
手で押しのけようとしたら、むにゅっと柔らかい感触が手に伝わる。胸を触ってしまった!
「積極的だねぇ。何を求めているのかな?」
「苦しいのでどいてくださいッ!」
恥ずかしくて早口で言ってしまった。世の中にはすぐ手を出す男もいるが、俺は違う。そういうことをするのであれば、ちゃんと心が通い合ってからしたいのだ。
「顔を真っ赤にさせてー。何考えているのかな? お姉さんに言ってみなさい」
なんでどかないんだ! 楽しんでいるのか動いてくれない。このままだと押しつぶされる。幸せだけどそれはダメだ!
「またバカなことをしている」
急に体が軽くなった。ヘイリーさんが首根っこを掴んで、体を持ち上げてくれたようだ。片腕でそんなことできるのか。男を護衛していた女性を剣で圧倒していたし、スラリとした見た目に反してものすごい力を秘めている。絶対に怒らせないようにしよう……。
「ごめん。ちょっとだけ楽しんじゃった」
「罰としてご飯を作って」
「えーー」
文句を言っているレベッタさんの耳にヘイリーさんの唇が近づいた。
小声で何かを伝えたらしい。
「わかったよ」
急に提案を受け入れたようで、解放されたレベッタさんはキッチンへ向かって行った。
どうやって説得したのか気になる。ソファから立ち上がると、この場に残っているヘイリーさんに聞いてみよう。
「さっきは何を言ったんですか?」
「手料理を褒めてもらったら嬉しいでしょ、と教えただけ」
これって、俺が褒めなければいけないパターンだ!
食事は外から買ってきた物を食べることが多く、レベッタさんの手料理は今日が初めてだ。美味しいのか、それとも違うのか、それすらわからない。
「料理は上手いんですか?」
「安心して。普通に美味しい」
どうやら口に入れただけで体調を崩してしまう展開は避けられそうだ。美味しいと断言していることだし、お世辞を言わなくても良さそう。
俺は嘘が下手だから助かった。
「レベッタさんの手料理、楽しみです!」
なぜか突き飛ばされてしまったのでソファに座ってしまう。俺の太ももにヘイリーさんの頭が乗った。
「頑張って戦ったからご褒美」
ワガママを言ったことで戦闘が発生し、彼女は身を挺して守ってくれた。お礼をしなければと思っていたので膝枕ぐらい何度でもしよう。
髪を撫でるとヘイリーさんは目を閉じた。すぐにスー、スーと寝息を立てる。
「ありがとうございます」
意図したものではない。感謝の気持ちが言葉として漏れてしまったのだ。
いつか、起きているときにもお礼を言おう。
* * *
料理が完成したのは二時間後だった。陽は完全に落ちていて外は暗くなっている。
テーブルには赤いスープを中心にパンやサラダ、ステーキなどがあって非常に豪華だ。遅い時間なのでお腹はペコペコだ。
二人がスープをお椀に移し終わったのを確認してから、スプーンですくい近づける。バジルのような、こうばしい香りが鼻腔を包み込んでいく。その香りに誘われれて口へ含もうとしたら、外から声が聞こえた。
「レベッタはいるか?」
あれはテレシアさんだ。あのクソ野郎が衛兵に通報したから家にまで来たんだろう。
真面目だけど話せばわかる人だから、事情を丁寧に説明すればすぐに帰ってくれるはず。大丈夫だとは思っているけど心臓はドクドクとうるさいぐらいに鼓動していた。
「私が出る」
スプーンを置くと、ヘイリーさんがドアを開けて出迎えた。
「とある男性から、女に暴力を振るわれたと通報があって事情を聞きに来た」
「ふーん。衛兵所まで連行するつもり?」
「いや、ここで話したい。入れてもらえないか」
「内密にしたいことがあるのね」
「彼に関することだからな」
会話をしている間、ずっと俺のことを見ていた。なんでだろう……って! やば! 今は変装をしていない! 男だとバレてる!
「どどどどうしましょう」
「慌てている姿も可愛いね」
なんで、そんな余裕があるんだ!
衛兵は権力側の人なんだから、バレたら拘束されるかもしれないのに!
「安心していいよ。テレシアは私たちの協力者になってるから」
「え? どういうことですか?」
「秘密」
疑問ばかり浮かんでいる俺に、レベッタさんは何かを企んでいるような笑みを浮かべていた。
中に入ると一階にあるソファへダイブする。横になったまま動けない。足が疲れてもう立ちたくないのだ。
そんな俺を見つつ、レベッタさんとヘイリーさんは二階に上がって行った。部屋で武具を外すのだろう。彼女たちの方が疲れているはずなのに、そんな素振りは一切見せない。
これが体力の差か。
もし二人と一緒に冒険者活動をするのであれば、今のままだと足手まといになってしまいそうだ。命を賭けた仕事をするのだから準備に手は抜けない。先ずは標準的な体力を付けるところから始めよう。
明日からランニング開始だ。庭で剣を素振りするのも良いかも。木の棒を振るだけでも筋肉は鍛えられるだろ。
あの男がどんな動きをしてくるかわからないが、最悪の場合を考えれば戦う力は蓄えて損はないはず。
「お待たせーーっ! ご飯食べよう」
元気の塊でもあるレベッタさんが、階段を駆け下りると俺にダイブしてきた。
避けるなんてことはできず下敷きになってしまう。
「うっ」
肺から空気が一気に出てしまい、少し呼吸が止まってしまった。痛いより苦しい。
手で押しのけようとしたら、むにゅっと柔らかい感触が手に伝わる。胸を触ってしまった!
「積極的だねぇ。何を求めているのかな?」
「苦しいのでどいてくださいッ!」
恥ずかしくて早口で言ってしまった。世の中にはすぐ手を出す男もいるが、俺は違う。そういうことをするのであれば、ちゃんと心が通い合ってからしたいのだ。
「顔を真っ赤にさせてー。何考えているのかな? お姉さんに言ってみなさい」
なんでどかないんだ! 楽しんでいるのか動いてくれない。このままだと押しつぶされる。幸せだけどそれはダメだ!
「またバカなことをしている」
急に体が軽くなった。ヘイリーさんが首根っこを掴んで、体を持ち上げてくれたようだ。片腕でそんなことできるのか。男を護衛していた女性を剣で圧倒していたし、スラリとした見た目に反してものすごい力を秘めている。絶対に怒らせないようにしよう……。
「ごめん。ちょっとだけ楽しんじゃった」
「罰としてご飯を作って」
「えーー」
文句を言っているレベッタさんの耳にヘイリーさんの唇が近づいた。
小声で何かを伝えたらしい。
「わかったよ」
急に提案を受け入れたようで、解放されたレベッタさんはキッチンへ向かって行った。
どうやって説得したのか気になる。ソファから立ち上がると、この場に残っているヘイリーさんに聞いてみよう。
「さっきは何を言ったんですか?」
「手料理を褒めてもらったら嬉しいでしょ、と教えただけ」
これって、俺が褒めなければいけないパターンだ!
食事は外から買ってきた物を食べることが多く、レベッタさんの手料理は今日が初めてだ。美味しいのか、それとも違うのか、それすらわからない。
「料理は上手いんですか?」
「安心して。普通に美味しい」
どうやら口に入れただけで体調を崩してしまう展開は避けられそうだ。美味しいと断言していることだし、お世辞を言わなくても良さそう。
俺は嘘が下手だから助かった。
「レベッタさんの手料理、楽しみです!」
なぜか突き飛ばされてしまったのでソファに座ってしまう。俺の太ももにヘイリーさんの頭が乗った。
「頑張って戦ったからご褒美」
ワガママを言ったことで戦闘が発生し、彼女は身を挺して守ってくれた。お礼をしなければと思っていたので膝枕ぐらい何度でもしよう。
髪を撫でるとヘイリーさんは目を閉じた。すぐにスー、スーと寝息を立てる。
「ありがとうございます」
意図したものではない。感謝の気持ちが言葉として漏れてしまったのだ。
いつか、起きているときにもお礼を言おう。
* * *
料理が完成したのは二時間後だった。陽は完全に落ちていて外は暗くなっている。
テーブルには赤いスープを中心にパンやサラダ、ステーキなどがあって非常に豪華だ。遅い時間なのでお腹はペコペコだ。
二人がスープをお椀に移し終わったのを確認してから、スプーンですくい近づける。バジルのような、こうばしい香りが鼻腔を包み込んでいく。その香りに誘われれて口へ含もうとしたら、外から声が聞こえた。
「レベッタはいるか?」
あれはテレシアさんだ。あのクソ野郎が衛兵に通報したから家にまで来たんだろう。
真面目だけど話せばわかる人だから、事情を丁寧に説明すればすぐに帰ってくれるはず。大丈夫だとは思っているけど心臓はドクドクとうるさいぐらいに鼓動していた。
「私が出る」
スプーンを置くと、ヘイリーさんがドアを開けて出迎えた。
「とある男性から、女に暴力を振るわれたと通報があって事情を聞きに来た」
「ふーん。衛兵所まで連行するつもり?」
「いや、ここで話したい。入れてもらえないか」
「内密にしたいことがあるのね」
「彼に関することだからな」
会話をしている間、ずっと俺のことを見ていた。なんでだろう……って! やば! 今は変装をしていない! 男だとバレてる!
「どどどどうしましょう」
「慌てている姿も可愛いね」
なんで、そんな余裕があるんだ!
衛兵は権力側の人なんだから、バレたら拘束されるかもしれないのに!
「安心していいよ。テレシアは私たちの協力者になってるから」
「え? どういうことですか?」
「秘密」
疑問ばかり浮かんでいる俺に、レベッタさんは何かを企んでいるような笑みを浮かべていた。