衛兵隊長の言葉なら信じても大丈夫だろうと思って、ベンチに座り釈放されるまでノンビリと待っている。
陽差しで暖まった体を風が撫でる。心地が良いな。平和だし緊張感がほぐれていく。
「ふぁ~~」
今日は異世界の町を観光したうえにトラブルもあったから疲れているようだ。眠くなってきたので、あくびをしてしまった。
必死に睡魔を追い払おうとするが抵抗むなしく負けてしまう。頭を前後にカクカクと動かしながら浅い睡眠と覚醒を繰り返す。いつの間にか意識を失っていた。
夢の中でイオディプスは泣きながら逃げている。場所は森の中で、追っているのは武装した女性だ。騎士のような身なりをしていて叫んでいた。
体力的に劣っていることもあって、もうすぐ追いつかれそう。テレビで逃亡劇を見ているような気持ちでイオディプスを応援していると、近くの川に飛び込み流されていった。ブクブクと口から泡を出しながら沈んでいく。あれは死んだ。そう思ったときに時に――。
「お待たせーーーーっ!」
元気な声が聞こえた。体に衝撃が走る。見ていた夢は一気に吹き飛び覚醒した。
驚きのあまり心臓は激しく動いている。
「お帰りなさい」
抱き付いてきたのはレベッタさんだったので、小声だけどしっかりと気持ちを込めていった。
「やっぱかわいいー!」
興奮したのか、レベッタさんが大声を出してしまった。周囲の目が集まって注目されている。
この状況はちょっと良くない。男だとバレてしまう。
「バカ。落ち着け」
スパンと、ヘイリーさんがレベッタさんの頭をはたいた。
二人ともケガをしているようには見えないし、衛兵所で乱暴はされなかったみたいだ。
真面目なテレシアさんが隊長をしているから、部下の教育もしっかりと行き届いているのだろう。約束通りすぐに出してくれたし今度お礼をしなきゃ。
「ヘイリーさんもお帰りなさい」
「ありがとう」
短く素っ気ないような言い方だったけど、微笑んでくれたので嫌ではなかったはず。
離れていた時間は短かったのに、二人と再開できたことに大きな喜びを感じている。いつのまにか俺にとって大事な人になっていたようだ。
もし今回より大きなトラブルに巻き込まれたら、俺はどんな手段を使ってでも助けようと心に誓う。
「もうちょっとで日が暮れちゃうし、今日は帰る?」
今日は屋台での買い食い、新しい服や靴の購入、冒険者ギルドの見学も予定していたけど、そんな気分ではない。家に帰ってゆっくりしたいと思っていたので、レベッタさんの提案はありがたい。
観光なんて明日や明後日でも問題ないので首を縦に振って同意した。
「帰ろう」
俺の腕をヘイリーさんが引っ張ったので、レベッタさんに抱き付かれながら立ち上がる。
家を出たときと同じように、二人に腕を組まれながら歩き始めた。
もうすぐで夕方になりそうということもあって、野菜や肉を選ぶ子連れの女性を何人も見かけた。
「妊娠スキルによって子供を作った親子だね」
無知な俺のためにレベッタさんが教えてくれた。
男を種馬扱いする恐るべきスキルで人口を維持しているという話だったよな。妊娠率は脅威の100%らしい。
幸せそうな親子を見ていると、男の人権を無視するなとは言いにくいと思ってしまう。
精力を提供するだけで生活が保護されるんだし、もしかしたら喜んで種を提供している男もいるのかな。
「高いお肉を買ってる!」
親子は霜降り肉を店員から受け取っていた。牛の肉なのかな。異世界だから他の動物や魔物だったりするのかも。食材について後で聞いてみよう。
「子育て支援が手厚いから、余裕があるんだろうなー」
レベッタさんは、涎を垂らしてしまいそうな顔だった。
食べることが好きなのか。お金が稼げるようになったら、お礼として高級なお店に招待してみるのもいいだろう。
「イオ君は子供好き?」
ずっと黙っていたヘイリーさんが、俺を試すようなことを聞いてきた。
好きか嫌いかなんてわからない。俺がクソ親父みたいになってしまうんじゃないかって不安もあるから、欲しいなんて思ったことはなかった。
「わからないです」
「そっか」
短い返事をしたら黙ってしまった。その後、「私一人で育てることも考えないと」なんて言っていた気もするけど、きっとスキルで妊娠した後のことを考えているのだろう。
子供ができたら、ヘイリーさんはパーティハウスから出て言ってしまうのかも。想像しただけで寂しくなってきた。
「でも、ヘイリーさんの子供だったら好きになれそうな気がします」
「私は!?」
「もちろん。レベッタさんもですよ」
二人ともギラギラと欲望で濁ったような目に変わった。
あれ? 変なこと言ってしまった?
俺の腕を掴む手に力が入ったみたいで、ちょっと痛い。なんで興奮しているのか全くわからないけど力を抜いてもらわなければ。
「腕が……」
「てめぇ。邪魔だッッ!!」
男の声だ。
痛みなんて吹き飛ぶぐらいの驚きを受けた。
正面を見る。買い物をしていた親子の前に腹の出た男が立っていた。周囲には武装した女性が五人もいる。
「デブガエルだ」
あの男にたいしてぴったりな表現だ。
ヘイリーさんの言葉に思わず笑い出しそうになってしまった。
「俺様を優先しろ」
男は肉を受け取っていた親子を突き飛ばしたうえに、母親の方を蹴りつけた。
その瞬間、俺の感情は怒りに染まる。
許せない。
女性に暴力を振るいやがった。しかも母親に。
怒りによって視界が真っ赤に染まる。ギリッと歯の軋む音が聞こえた。
男は倒れている母親にさらなる暴行を加えようとしている。見逃してはいけない。守るために飛び出す。
「ダメ」
「動かないでっ」
腕を掴んでいる二人に止められてしまった。
なぜ、止める! 俺はあの男を殺さなければいけないッ!!
拘束から抜け出そうとして暴れるが、力が劣っているせいか思った通りにはいかなかった。
陽差しで暖まった体を風が撫でる。心地が良いな。平和だし緊張感がほぐれていく。
「ふぁ~~」
今日は異世界の町を観光したうえにトラブルもあったから疲れているようだ。眠くなってきたので、あくびをしてしまった。
必死に睡魔を追い払おうとするが抵抗むなしく負けてしまう。頭を前後にカクカクと動かしながら浅い睡眠と覚醒を繰り返す。いつの間にか意識を失っていた。
夢の中でイオディプスは泣きながら逃げている。場所は森の中で、追っているのは武装した女性だ。騎士のような身なりをしていて叫んでいた。
体力的に劣っていることもあって、もうすぐ追いつかれそう。テレビで逃亡劇を見ているような気持ちでイオディプスを応援していると、近くの川に飛び込み流されていった。ブクブクと口から泡を出しながら沈んでいく。あれは死んだ。そう思ったときに時に――。
「お待たせーーーーっ!」
元気な声が聞こえた。体に衝撃が走る。見ていた夢は一気に吹き飛び覚醒した。
驚きのあまり心臓は激しく動いている。
「お帰りなさい」
抱き付いてきたのはレベッタさんだったので、小声だけどしっかりと気持ちを込めていった。
「やっぱかわいいー!」
興奮したのか、レベッタさんが大声を出してしまった。周囲の目が集まって注目されている。
この状況はちょっと良くない。男だとバレてしまう。
「バカ。落ち着け」
スパンと、ヘイリーさんがレベッタさんの頭をはたいた。
二人ともケガをしているようには見えないし、衛兵所で乱暴はされなかったみたいだ。
真面目なテレシアさんが隊長をしているから、部下の教育もしっかりと行き届いているのだろう。約束通りすぐに出してくれたし今度お礼をしなきゃ。
「ヘイリーさんもお帰りなさい」
「ありがとう」
短く素っ気ないような言い方だったけど、微笑んでくれたので嫌ではなかったはず。
離れていた時間は短かったのに、二人と再開できたことに大きな喜びを感じている。いつのまにか俺にとって大事な人になっていたようだ。
もし今回より大きなトラブルに巻き込まれたら、俺はどんな手段を使ってでも助けようと心に誓う。
「もうちょっとで日が暮れちゃうし、今日は帰る?」
今日は屋台での買い食い、新しい服や靴の購入、冒険者ギルドの見学も予定していたけど、そんな気分ではない。家に帰ってゆっくりしたいと思っていたので、レベッタさんの提案はありがたい。
観光なんて明日や明後日でも問題ないので首を縦に振って同意した。
「帰ろう」
俺の腕をヘイリーさんが引っ張ったので、レベッタさんに抱き付かれながら立ち上がる。
家を出たときと同じように、二人に腕を組まれながら歩き始めた。
もうすぐで夕方になりそうということもあって、野菜や肉を選ぶ子連れの女性を何人も見かけた。
「妊娠スキルによって子供を作った親子だね」
無知な俺のためにレベッタさんが教えてくれた。
男を種馬扱いする恐るべきスキルで人口を維持しているという話だったよな。妊娠率は脅威の100%らしい。
幸せそうな親子を見ていると、男の人権を無視するなとは言いにくいと思ってしまう。
精力を提供するだけで生活が保護されるんだし、もしかしたら喜んで種を提供している男もいるのかな。
「高いお肉を買ってる!」
親子は霜降り肉を店員から受け取っていた。牛の肉なのかな。異世界だから他の動物や魔物だったりするのかも。食材について後で聞いてみよう。
「子育て支援が手厚いから、余裕があるんだろうなー」
レベッタさんは、涎を垂らしてしまいそうな顔だった。
食べることが好きなのか。お金が稼げるようになったら、お礼として高級なお店に招待してみるのもいいだろう。
「イオ君は子供好き?」
ずっと黙っていたヘイリーさんが、俺を試すようなことを聞いてきた。
好きか嫌いかなんてわからない。俺がクソ親父みたいになってしまうんじゃないかって不安もあるから、欲しいなんて思ったことはなかった。
「わからないです」
「そっか」
短い返事をしたら黙ってしまった。その後、「私一人で育てることも考えないと」なんて言っていた気もするけど、きっとスキルで妊娠した後のことを考えているのだろう。
子供ができたら、ヘイリーさんはパーティハウスから出て言ってしまうのかも。想像しただけで寂しくなってきた。
「でも、ヘイリーさんの子供だったら好きになれそうな気がします」
「私は!?」
「もちろん。レベッタさんもですよ」
二人ともギラギラと欲望で濁ったような目に変わった。
あれ? 変なこと言ってしまった?
俺の腕を掴む手に力が入ったみたいで、ちょっと痛い。なんで興奮しているのか全くわからないけど力を抜いてもらわなければ。
「腕が……」
「てめぇ。邪魔だッッ!!」
男の声だ。
痛みなんて吹き飛ぶぐらいの驚きを受けた。
正面を見る。買い物をしていた親子の前に腹の出た男が立っていた。周囲には武装した女性が五人もいる。
「デブガエルだ」
あの男にたいしてぴったりな表現だ。
ヘイリーさんの言葉に思わず笑い出しそうになってしまった。
「俺様を優先しろ」
男は肉を受け取っていた親子を突き飛ばしたうえに、母親の方を蹴りつけた。
その瞬間、俺の感情は怒りに染まる。
許せない。
女性に暴力を振るいやがった。しかも母親に。
怒りによって視界が真っ赤に染まる。ギリッと歯の軋む音が聞こえた。
男は倒れている母親にさらなる暴行を加えようとしている。見逃してはいけない。守るために飛び出す。
「ダメ」
「動かないでっ」
腕を掴んでいる二人に止められてしまった。
なぜ、止める! 俺はあの男を殺さなければいけないッ!!
拘束から抜け出そうとして暴れるが、力が劣っているせいか思った通りにはいかなかった。