なぜ俺はここにいるのか、母さんは無事だったのか、元の世界に戻れるのか、そんな疑問は後回しだ。今を生き抜くため、スキルについて調べていく。
どうやらスキルにはランクというものがあって、一番低いのはDでC、B、A、S、SSと六段階あるらしい。
DやCはとある分野において「少し得意」というレベルで、国民の八割はこのランクになる。実用的だと言われるのはB以降だ。
Bランクのスキルになると肉体の一部が強化でき、Aランクでは肉体全体の強化や、超常的な現象と呼ばれる魔法のスキルまで覚えるようである。そしてSやSSは――。
「何しているの?」
声をかけられたので顔を上げた。
目に入ったのは、太陽の光を反射して輝く白銀の長髪。一本にまとめられていて、運動しても邪魔にならないよう配慮されている。目は二重で大きく、唇は薄い。髪色とは違って冷たい印象はなく、親しみを感じるような笑みをしていた。見た感じ、俺より年上で二十歳ぐらいだろう。
視線をやや下に下げると大きな胸で止まる。サイズなんてわからないけど、すごく大きい。男であれば絶対に注目してしまう魅力がある。
彼女は緑色の革鎧と同素材のグローブをつけていて、片手にはショートボウと呼ばれる弓があった。
巨乳の狩人だ。美人と付け加えてもいい。
「ねえ、無視は酷いんじゃないかな?」
相手の様子を見ていたら、また声をかけられてしまった。
敵意は感じない。反応しないのは失礼だろうと思って、立ち上がってから口を開く。
「ごめんなさい。急に声をかけられたから、驚いちゃって……」
自分のことながら苦しい言い訳だなと思いつつ、狩人さんの顔を見る。
口をぽかんと開いて固まっていた。
ちょっと間が抜けた顔をしても、美しいと感じてしまうから不思議だ。
見蕩れていると、狩人さんの腕が伸びて肩を力強く掴まれた。興奮しているのか鼻息が荒い。若い女性特有の甘い匂いがして、頭がクラクラしてきた。
「ややややっぱり、ききききみって、おおおとこ、だだだだよね????」
「う、うん。男……です」
動揺しながら聞かれたので、思わず素直に返事をしてしまった。目がギラリと光ったように見えたけど、気のせい……だよね?
変わった反応をする人なんだなと思っていたら、狩人さんの顔が急に近づいてきた。もう少しで接触してしまいそう。
「私は女ですけど」
「うん。見てわかります」
「こんなに近づいて嫌じゃない?」
「え、別に? むしろ嬉しいぐらいで……」
って何を言っているんだろう。初対面の人に失言してしまった。なんて後悔していたら、狩人さんは俺から離れてしまった。
機嫌を悪くしたんじゃないかと気になったけど、喜んでいるような笑顔を見せている。
さっきの会話で、嬉しそうにするポイントなんてなかったけど。
この世界だと違う?
さっきから情報量が多すぎて頭が追いつかない。
何をすれば良いのかわからず、じっと様子を見る。
狩人さんは、手のひらを嗅いでいた。
え、俺って、そんなに臭かったのかな? 腕を鼻につけて臭いを確認してみるけど、気になるほどではなかった。人に嫌われるほどではない。少しほこりっぽいかなって、感じだ。
「あのー」
狩人さんが、ちょっと控えめな感じで声をかけてきた。
「なんですか?」
「男性なのに、なんでこんなところに? どこかに仲間がいるの?」
町が見える場所とはいえ、誰もいない草原だ。魔物が襲ってくるかもしれないのに、のんびりと本を読んでいたのだから、違和感があって質問したのだろう。
「俺だけです」
「え、本当にたった一人? 護衛の女性はいないの?」
「いません。普通は護衛をつけるものなんでしょうか」
ナイフぐらいは持っているけど、本に書いてあった魔物と戦えるような準備はしていない。狩人さんから見れば、自殺志願者のように見えたのかも。
実際、この体の持ち主であったイオディプスは、自死を望んでいたのだから間違いではないんだけど。
「街の外に出るなら数人の護衛は必須だから! こんな危険なところに一人でいたらダメだって!」
本気で心配してくれている目をしている。狩人さんは、すごく性格のいい人なんだろうと感じた。
クソ親父に刺されて死んだと思ったら、よくわからない世界に来て状況がよくわかってない俺からすると、幸運の女神のように見える。
「心配してくれてありがとうございます」
笑顔を作って、精一杯のお礼を言った。
「うそ! 今、お礼を言われた!? 男性に?」
「ダメでした?」
「いやいやいやいや!! ダメじゃない! むしろ嬉しいっていうか、ありがとうございます!!」
「こっちこそ、ありがとうございます。実は一人で心細かったんですよ」
これは嘘偽りのない本音。町の入り方すらわからない俺にとって、親切な狩人さんの存在は、すごくありがたい。
「どうして一人なのか聞いてもいい?」
「もちろんです」
やはりそうなるよな。俺でも同じことを聞くだろう。
その場しのぎではあるが、話しながら考えていた言い訳を伝えることにする。
「10歳になって判別の日を終えたらすぐ、村を出て森の中で暮らしてたんですよ」
「一人で?」
「はい」
俺はこの世界の常識がわからないので、僻地で生活していたことにしたのだ。これなら多少、変な質問をしていても不審には思われないだろう。
「なるほどね。じゃあ、すぐ森に帰るのかな?」
深くは追及されなかった。疑われているかもしれないけど、一応は話を聞いてくれるみたい。
「一人の生活は飽きたので、近くにある町を見に行こうと――」
「だったら、私が案内しましょうかっ!?」
食い込み気味に言われてしまった。なんだか酷く興奮しているように見えるけど気のせいだろう。
この世界に疎い俺にとって、ありがたい提案だから断る理由はない。
「それは助かります」
「やったーーっ!!」
お礼を言ったら、飛び跳ねるぐらい喜ばれてしまった。他人のために本気で動こうとする狩人さんは、間違いなく良い人なんだと思う。
どうやらスキルにはランクというものがあって、一番低いのはDでC、B、A、S、SSと六段階あるらしい。
DやCはとある分野において「少し得意」というレベルで、国民の八割はこのランクになる。実用的だと言われるのはB以降だ。
Bランクのスキルになると肉体の一部が強化でき、Aランクでは肉体全体の強化や、超常的な現象と呼ばれる魔法のスキルまで覚えるようである。そしてSやSSは――。
「何しているの?」
声をかけられたので顔を上げた。
目に入ったのは、太陽の光を反射して輝く白銀の長髪。一本にまとめられていて、運動しても邪魔にならないよう配慮されている。目は二重で大きく、唇は薄い。髪色とは違って冷たい印象はなく、親しみを感じるような笑みをしていた。見た感じ、俺より年上で二十歳ぐらいだろう。
視線をやや下に下げると大きな胸で止まる。サイズなんてわからないけど、すごく大きい。男であれば絶対に注目してしまう魅力がある。
彼女は緑色の革鎧と同素材のグローブをつけていて、片手にはショートボウと呼ばれる弓があった。
巨乳の狩人だ。美人と付け加えてもいい。
「ねえ、無視は酷いんじゃないかな?」
相手の様子を見ていたら、また声をかけられてしまった。
敵意は感じない。反応しないのは失礼だろうと思って、立ち上がってから口を開く。
「ごめんなさい。急に声をかけられたから、驚いちゃって……」
自分のことながら苦しい言い訳だなと思いつつ、狩人さんの顔を見る。
口をぽかんと開いて固まっていた。
ちょっと間が抜けた顔をしても、美しいと感じてしまうから不思議だ。
見蕩れていると、狩人さんの腕が伸びて肩を力強く掴まれた。興奮しているのか鼻息が荒い。若い女性特有の甘い匂いがして、頭がクラクラしてきた。
「ややややっぱり、ききききみって、おおおとこ、だだだだよね????」
「う、うん。男……です」
動揺しながら聞かれたので、思わず素直に返事をしてしまった。目がギラリと光ったように見えたけど、気のせい……だよね?
変わった反応をする人なんだなと思っていたら、狩人さんの顔が急に近づいてきた。もう少しで接触してしまいそう。
「私は女ですけど」
「うん。見てわかります」
「こんなに近づいて嫌じゃない?」
「え、別に? むしろ嬉しいぐらいで……」
って何を言っているんだろう。初対面の人に失言してしまった。なんて後悔していたら、狩人さんは俺から離れてしまった。
機嫌を悪くしたんじゃないかと気になったけど、喜んでいるような笑顔を見せている。
さっきの会話で、嬉しそうにするポイントなんてなかったけど。
この世界だと違う?
さっきから情報量が多すぎて頭が追いつかない。
何をすれば良いのかわからず、じっと様子を見る。
狩人さんは、手のひらを嗅いでいた。
え、俺って、そんなに臭かったのかな? 腕を鼻につけて臭いを確認してみるけど、気になるほどではなかった。人に嫌われるほどではない。少しほこりっぽいかなって、感じだ。
「あのー」
狩人さんが、ちょっと控えめな感じで声をかけてきた。
「なんですか?」
「男性なのに、なんでこんなところに? どこかに仲間がいるの?」
町が見える場所とはいえ、誰もいない草原だ。魔物が襲ってくるかもしれないのに、のんびりと本を読んでいたのだから、違和感があって質問したのだろう。
「俺だけです」
「え、本当にたった一人? 護衛の女性はいないの?」
「いません。普通は護衛をつけるものなんでしょうか」
ナイフぐらいは持っているけど、本に書いてあった魔物と戦えるような準備はしていない。狩人さんから見れば、自殺志願者のように見えたのかも。
実際、この体の持ち主であったイオディプスは、自死を望んでいたのだから間違いではないんだけど。
「街の外に出るなら数人の護衛は必須だから! こんな危険なところに一人でいたらダメだって!」
本気で心配してくれている目をしている。狩人さんは、すごく性格のいい人なんだろうと感じた。
クソ親父に刺されて死んだと思ったら、よくわからない世界に来て状況がよくわかってない俺からすると、幸運の女神のように見える。
「心配してくれてありがとうございます」
笑顔を作って、精一杯のお礼を言った。
「うそ! 今、お礼を言われた!? 男性に?」
「ダメでした?」
「いやいやいやいや!! ダメじゃない! むしろ嬉しいっていうか、ありがとうございます!!」
「こっちこそ、ありがとうございます。実は一人で心細かったんですよ」
これは嘘偽りのない本音。町の入り方すらわからない俺にとって、親切な狩人さんの存在は、すごくありがたい。
「どうして一人なのか聞いてもいい?」
「もちろんです」
やはりそうなるよな。俺でも同じことを聞くだろう。
その場しのぎではあるが、話しながら考えていた言い訳を伝えることにする。
「10歳になって判別の日を終えたらすぐ、村を出て森の中で暮らしてたんですよ」
「一人で?」
「はい」
俺はこの世界の常識がわからないので、僻地で生活していたことにしたのだ。これなら多少、変な質問をしていても不審には思われないだろう。
「なるほどね。じゃあ、すぐ森に帰るのかな?」
深くは追及されなかった。疑われているかもしれないけど、一応は話を聞いてくれるみたい。
「一人の生活は飽きたので、近くにある町を見に行こうと――」
「だったら、私が案内しましょうかっ!?」
食い込み気味に言われてしまった。なんだか酷く興奮しているように見えるけど気のせいだろう。
この世界に疎い俺にとって、ありがたい提案だから断る理由はない。
「それは助かります」
「やったーーっ!!」
お礼を言ったら、飛び跳ねるぐらい喜ばれてしまった。他人のために本気で動こうとする狩人さんは、間違いなく良い人なんだと思う。