状況が把握できたこともあって気持ちが落ち着いてきた。体が動くようになる。
俺を襲うとしている二人を振り払って逃げることも検討してみたが、激しく動いたらカツラが落ちるかもしれない。髪を見られたら余計に興味を引いてしまうだろうし、最悪の場合は男だとバレてしまう。
ヘイリーさんが異変に気づくのを待つために、時間を稼ぐべきか。
悩んでいる間に獣人の手が伸びて俺の顔に近づく。
顔を隠している布を取ろうとしているのだ。
手をはたいてから、目をキリッとさせて睨みつける。
「いいね。その強気な態度。屈服させたときが楽しみだよ」
なぜか喜ばれてしまった。女性のお尻から生えている細長い尻尾が、激しく揺れている。
「姉さん。私もう我慢できないかも」
少しだけまともだと思っていた少女の目が光る。姿を見失ったと思ったら、両肩を押さえつけられていた。股に足を入れられてしまい身動きが取れない。少し上にズレたら黄金の玉に当たってしまいそうだ!
押し返そうと体を前に出す。
「スキルまで使っているんだから無駄だよ。私からは逃げられない」
少女が目を光らせながら言った。
恐らく腕力を強化するスキルが発動しているのだろう。俺の力だけじゃ脱出は不可能だと悟る。
「早く顔を見せて」
獣人の女性が手を伸ばしてきた。顔を左右に振って拒否の意思を示すが、その程度で止まる人じゃない。
時間稼ぎすらできずに、俺は正体がばれてしまうのか。
怖くなって目を閉じる。
いくら待っても、口に巻いた布が取られることはなかった。
「おい、やめろ! 痛い! 痛いってっ!!」
獣人の女性が悲鳴を上げている。目を開くとレベッタさんの姿が見えた。俺を襲ってきた二人の頭を掴んでいる。
「離すわけないでしょ。私の大切な人を傷つけようとしたんだからっ!」
レベッタさんは二人の頭を掴んだまま投げ捨ててしまった。
解放された俺は力が抜けてしまい、ペタリと力なく座り込んでしまう。
「レベッタ! 許してって!」
「アーリア、お前は許さないっ」
どうやら知り合いみたいで、レベッタさんは俺を取り押さえていた少女、アーリアさんの顔を殴りつけた。獣人の女性が助けに入ろうとしているが、ヘイリーさんに殴りつけられて気絶してしまった。
「カリナ、あなたは大罪を犯した」
倒れている獣人の女性、カリナさんを踏みつけようとしている。狙いは顔だ。下手したら死んでしまうぞ! 早く止めなければ!
腰に力が入らないので這いずるようにして移動し、ヘイリーさんの細い足を掴んだ。
「暴力はダメです」
意識して高くした声を出した。
狙い通り、ヘイリーさんは驚いて動きが止まる。
心の中で『ごめん!』と叫んでから掴んでいた足を持ち上げると、バランスを崩したヘイリーさんが座ってしまう。
よし、これで大丈夫。アーリアさんの方を見ると、店員さんが仲裁に入っていたようで、暴力行為は終わっていた。
騒動は無事に終わったが、全てが順調というわけではない。
人が集まっていてこの場から逃げられそうにないのだ。
「お前ら何している!」
脱出方法探すために周囲を見渡していると、ブレストプレートをつけ、片手剣をぶら下げている集団が入ってきた。
「店内で暴れているヤツがいると通報があった。お前ら全員、衛兵所まできてもらうっ!」
どうやら警察みたいな人たちのようだ。騒動の中心であった四人が捕縛されていく。
治安が悪い町だから、もっと荒っぽい展開になると思っていたが、意外なことにみんな素直に従っていた。
「ケガはないかい?」
衛兵の一人が俺に声をかけてきた。
長い黒髪の女性だ。小麦色の肌をもち耳が横に伸びていて、ダークエルフだというのがわかった。凜とした立ち振る舞いをしている姿が魅力的に感じる。この人は自分を律して法を守るタイプだろう。
学校にいたら、生徒会長とかになっていたんじゃないかと想像してしまった。俺は意外と人を見抜く目があるので自信はある。
下手に返事をしたら男だとバレてしまうので、質問には首を縦に振って肯定した。
「ならよかった」
手を出されたので握ると、引いてもらい立ち上がる。
ちゃんと腰にも力がはいったので倒れることはなかった。
手を離してダークエルフの顔を見る。
なんだか不思議そうな顔をしているぞ。嫌な予感がする。
手の大きさから俺が男性だとバレたり、スキルがバレたりしたら、面倒なことになってしまう。二人を守るために一時撤退だ。頭を下げるとすぐにその場から立ち去る。
「あ、待って……」
静止する声が聞こえた。しかし無視だ! 無視! 捕まって男だとバレたくない。
急いで人混みをかき分けて店を出る。
すぐ近くにある細い路地へ入ると、道具屋の入り口を監視した。
しばらくして衛兵とレベッタさんたち四人の姿を捕らえる。拘束はされてないが家に帰れる雰囲気ではない。宣言された通り、衛兵所に連れて行かれるのだろう。
日本であれば暴行罪で逮捕という形になると思うのだが、この世界ではどうなるかわからない。家に帰って待つのではなく様子を見に行くべきだろう。
距離を取りながら衛兵たちの後を付いていく。
衛兵所は離れた場所にあったらしい。外壁の門まできてしまった。
鉄扉の門の隣に三階建ての建物があり、レベッタさんたちはそこに連れ込まれていく。
近くにベンチがあったので座って衛兵所の入り口を監視することにした。
とりあえずしばらくは眺めておくとしよう。
夜になっても出てこないようであれば、衛兵所に突撃でもしようか。恩人である二人は、俺の力で逃がしてあげよう。
そんな無謀ともいえる計画を練っていた。
俺を襲うとしている二人を振り払って逃げることも検討してみたが、激しく動いたらカツラが落ちるかもしれない。髪を見られたら余計に興味を引いてしまうだろうし、最悪の場合は男だとバレてしまう。
ヘイリーさんが異変に気づくのを待つために、時間を稼ぐべきか。
悩んでいる間に獣人の手が伸びて俺の顔に近づく。
顔を隠している布を取ろうとしているのだ。
手をはたいてから、目をキリッとさせて睨みつける。
「いいね。その強気な態度。屈服させたときが楽しみだよ」
なぜか喜ばれてしまった。女性のお尻から生えている細長い尻尾が、激しく揺れている。
「姉さん。私もう我慢できないかも」
少しだけまともだと思っていた少女の目が光る。姿を見失ったと思ったら、両肩を押さえつけられていた。股に足を入れられてしまい身動きが取れない。少し上にズレたら黄金の玉に当たってしまいそうだ!
押し返そうと体を前に出す。
「スキルまで使っているんだから無駄だよ。私からは逃げられない」
少女が目を光らせながら言った。
恐らく腕力を強化するスキルが発動しているのだろう。俺の力だけじゃ脱出は不可能だと悟る。
「早く顔を見せて」
獣人の女性が手を伸ばしてきた。顔を左右に振って拒否の意思を示すが、その程度で止まる人じゃない。
時間稼ぎすらできずに、俺は正体がばれてしまうのか。
怖くなって目を閉じる。
いくら待っても、口に巻いた布が取られることはなかった。
「おい、やめろ! 痛い! 痛いってっ!!」
獣人の女性が悲鳴を上げている。目を開くとレベッタさんの姿が見えた。俺を襲ってきた二人の頭を掴んでいる。
「離すわけないでしょ。私の大切な人を傷つけようとしたんだからっ!」
レベッタさんは二人の頭を掴んだまま投げ捨ててしまった。
解放された俺は力が抜けてしまい、ペタリと力なく座り込んでしまう。
「レベッタ! 許してって!」
「アーリア、お前は許さないっ」
どうやら知り合いみたいで、レベッタさんは俺を取り押さえていた少女、アーリアさんの顔を殴りつけた。獣人の女性が助けに入ろうとしているが、ヘイリーさんに殴りつけられて気絶してしまった。
「カリナ、あなたは大罪を犯した」
倒れている獣人の女性、カリナさんを踏みつけようとしている。狙いは顔だ。下手したら死んでしまうぞ! 早く止めなければ!
腰に力が入らないので這いずるようにして移動し、ヘイリーさんの細い足を掴んだ。
「暴力はダメです」
意識して高くした声を出した。
狙い通り、ヘイリーさんは驚いて動きが止まる。
心の中で『ごめん!』と叫んでから掴んでいた足を持ち上げると、バランスを崩したヘイリーさんが座ってしまう。
よし、これで大丈夫。アーリアさんの方を見ると、店員さんが仲裁に入っていたようで、暴力行為は終わっていた。
騒動は無事に終わったが、全てが順調というわけではない。
人が集まっていてこの場から逃げられそうにないのだ。
「お前ら何している!」
脱出方法探すために周囲を見渡していると、ブレストプレートをつけ、片手剣をぶら下げている集団が入ってきた。
「店内で暴れているヤツがいると通報があった。お前ら全員、衛兵所まできてもらうっ!」
どうやら警察みたいな人たちのようだ。騒動の中心であった四人が捕縛されていく。
治安が悪い町だから、もっと荒っぽい展開になると思っていたが、意外なことにみんな素直に従っていた。
「ケガはないかい?」
衛兵の一人が俺に声をかけてきた。
長い黒髪の女性だ。小麦色の肌をもち耳が横に伸びていて、ダークエルフだというのがわかった。凜とした立ち振る舞いをしている姿が魅力的に感じる。この人は自分を律して法を守るタイプだろう。
学校にいたら、生徒会長とかになっていたんじゃないかと想像してしまった。俺は意外と人を見抜く目があるので自信はある。
下手に返事をしたら男だとバレてしまうので、質問には首を縦に振って肯定した。
「ならよかった」
手を出されたので握ると、引いてもらい立ち上がる。
ちゃんと腰にも力がはいったので倒れることはなかった。
手を離してダークエルフの顔を見る。
なんだか不思議そうな顔をしているぞ。嫌な予感がする。
手の大きさから俺が男性だとバレたり、スキルがバレたりしたら、面倒なことになってしまう。二人を守るために一時撤退だ。頭を下げるとすぐにその場から立ち去る。
「あ、待って……」
静止する声が聞こえた。しかし無視だ! 無視! 捕まって男だとバレたくない。
急いで人混みをかき分けて店を出る。
すぐ近くにある細い路地へ入ると、道具屋の入り口を監視した。
しばらくして衛兵とレベッタさんたち四人の姿を捕らえる。拘束はされてないが家に帰れる雰囲気ではない。宣言された通り、衛兵所に連れて行かれるのだろう。
日本であれば暴行罪で逮捕という形になると思うのだが、この世界ではどうなるかわからない。家に帰って待つのではなく様子を見に行くべきだろう。
距離を取りながら衛兵たちの後を付いていく。
衛兵所は離れた場所にあったらしい。外壁の門まできてしまった。
鉄扉の門の隣に三階建ての建物があり、レベッタさんたちはそこに連れ込まれていく。
近くにベンチがあったので座って衛兵所の入り口を監視することにした。
とりあえずしばらくは眺めておくとしよう。
夜になっても出てこないようであれば、衛兵所に突撃でもしようか。恩人である二人は、俺の力で逃がしてあげよう。
そんな無謀ともいえる計画を練っていた。