この一週間、北海道に帰ってお母さんと過ごすことに決めた。
「梨々花、東京はどうだった?」
「お仕事は疲れたけど、お友達ができたの!」
「まあ。……懐かしいわね。梨々花、小学校の時、全然お友達がいなくて毎日のように泣いていたもの」
 そうだったかな。
 思い出してみるとお母さんの言う通り。
 小学校の時、家から学校まで毎日車で登校していた。学校までもすごく遠くて、クラスの子たちは帰ったら公園で遊んでいたけれど、私は公園までが遠くて全然遊べなかった。
 遊び相手は近くの牧場の馬だった。
「梨々花、ずっと馬に乗って牧場を駆け巡ってたんだから。それでお友達って?」
「えっとね、月の癒し屋っていう飲食店の店主の月華さんだよ!私にお料理を教えてくれたの!」
「……梨々花がこんなに誰かのことを楽しそうに話すなんて。じゃあ、今夜は梨々花が作ってくれる?」
「うん!もちろん」
 その日の夜はアボカド鶏そぼろ丼にした。
「はい、どうぞ。お母さん、くすみが気になるって言ってたからくすみ対策のお料理だよ」
「ありがとう」
 あっという間に北海道にいられるのも残り一日となった。
「そうだ、お母さん。松崎さんの畑と私が小さい時に遊んでた牧場に連れてってくれる?」
「ええ。いいわよ」
 お母さんの車に乗り、松崎さんのお家へ。
「まあ、りりちゃん⁉こんなに大きくなったんだね~」
「えへへ。松崎さんお久しぶりです!」
「あれっ?梨々花じゃない」
 松崎さんの家から出てきたのは私の幼馴染みの小雪(こゆき)
 小雪は私と同い年で保育園の頃からの知り合い。
 小雪は名前のように肌は白くて猫目の美女。 
「小雪~!久しぶり!」
「久しぶり、梨々花。ねぇ、梨々花、東京にいたんでしょ?あたし一回も行ったことないんだよね。今度連れていってよ。そんで、美味しいお店教えてよ」
「うん、いいよ!」
 松崎さんたちと少しおしゃべりをした。
「ねぇ、おばあちゃん。今度梨々花に野菜おすそ分けしてもいい?」
 小雪が突然そんなことを言い出した。
「いいんだけど、なして?」
「この間、波穂(なほ)さんから聞いたんだよね~。梨々花、お料理を習って来たって」
 波穂さんというのはお母さんのこと。
「そうなのかい?りりちゃん」
「うん。習ったって言っても本当に少しなんだけどね」
「ならたくさん分けてあげようか。私にも食べさせてくれると嬉しいな」
「もちろんだよっ!松崎さんの作ったお野菜はとっても美味しいからたくさん食べれそう!」
 松崎さんの家を後にし、次は牧場に行った。
 北海道は牧場が多いから何度行っても飽きない。
「さあ、着いたよ」
 懐かしの土地。
「梨々花ちゃん?」
 声を掛けてくれたのが牧場主の方。
小鳥遊(たかなし)のおじさん……?お久しぶりです!」
「覚えててくれたんだね。ありがとう。梨々花ちゃんが昔乗っていた馬はまだまだ元気だよ。こっちへ」
 おじさんが馬房に連れてきてくれた。
「……!懐かしい」
 私が小さい時に乗っていた馬は栗毛の馬で人懐っこかった。
 その馬は私が小さい頃から変わらない。
 ずっと綺麗な瞳。綺麗な馬体。
「どうだい?乗ってみる?」
 久しぶりに馬に乗ったな。
 牧場を見渡せば昔と変わらない綺麗な景色。
 そして、東京に戻る日が来た。
「梨々花、いってらっしゃい」
「うん!行ってきます!」
「……東京に行く前とずいぶん変わったのね」
「そう?なんでもやってみないと分からないってお母さんも月華さんも言ってたし、私も頑張ろうって思っただけだよ?」
「大きく成長した証拠ね」
「お母さん、私、けっぱるね!」
 東京に戻って来た。
「梨々花さん、北海道はどうだったかしら」
 月華さんが出迎えてくれた。
「なまら楽しかったです!」
「ふふっ。良かったわね。そうだわ、今度ご家族に会ってもいいかしら、お料理を振る舞いたいわ」
 月華さんは楽しそうに喋った。
「もちろんです!」
 私も、仕事も頑張ろう。
 なんでも挑戦。失敗することは悪いことじゃない。
 失敗も糧にしないと。
 疲れた時は月の癒し屋で息抜きをしよう──。