「だから、天音は…っ」
天音がユウリやクラスメイトと関わらない理由はこれだ、と思った。
無性に泣きたくなった。
あの日、母親も父親も居なくなったあの日。
多分、天音が泣いたのはあの日だけだろう。
今まで抱え込んでたものが、その日に全部出てしまったんだろう。
ユウリは天音に同情に近いものをした。
「久しぶりだ…こんな気持ちになったの」
その時、ユウリの頭に一つの疑問が浮かんだ。
天音は今日、クラスメイトと関わらない理由が、「私が悪い」というように天音に原因があるような言い方をしていた。
天音がクラスメイトを拒んでいる理由が分からない。
もしかして、日記に書いてたりしてないか。
そう思ったユウリは再び日記を開いた。
「何してるの」
そこには天音がいた。
「ねぇ、何してるの」
「ねぇ、何で見たの」
「ごめ」
「謝罪なんて要らない」
「ねぇ、何で」
「『気持ちの宅配便』だから見たの?」
「ねぇ、見たの?」
天音の怒涛の質問が止まらない。
これが、天音の地雷…。
「…見た。けど、これがお前にとって最善の」
「〝願い〟だっけ?じゃあ、今言うよ」
「…っあ、ああ、うん、あったのか、〝願い〟」
ユウリの心は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
どうしたら天音に許してもらえるか、どうしたら天音に最善の選択をしてもらえるか。
そのせいで、頭がちゃんと回っていなかった。
「消えたい」
天音の〝願い〟はたった四文字だった。
その言葉でユウリの頭は一気に冴えた。
「ダメだ、そんな〝願い〟」
「何で?きっと世の中には最善の選択が死である人はたくさんいるよ」
泣きそうな、けど笑っているようにも見える表情だった。
母親のことを思っているんだろう。
父親から逃げるために、天音の母親は死を選んだ。
天音も今、死を選ぼうとしている。
「何でだ、日記を見られたぐらいで…」
「見られたぐらい、じゃないの。見られたのが恥ずかしいから、消えよう、死のうって思ったわけじゃない。ずっと思ってた。お母さんが死んでから。偶々、あなたがその日記を見たことでそれが引き金となっただけの話。」
「死ぬのは間違ってると思う」
「間違ってないよ。だから、私の〝願い〟を届けてきて」
部屋に沈黙が走った。
「…その選択は正しいかもしれない。けど、オレは、もっといい選択があるって分かる。だから、期日までに天音の願いが見つからなかったら、その〝願い〟を届けてやる。だから、期日まで待っててくれないか?」
「私の〝願い〟は変わらないと思うけどね。人生最後の五日間、楽しんでくるよ」
それを言った天音は、今までで一番、人間らしい感じがした。