「せんぱぁぁぁぁい!!!!」
「お、今日はどうした?」
「暇なんですぅぅぅぅ、切実にぃぃぃ」
「仕事しろよ」
「嫌だぁぁぁぁ」
「なんでだよ、本業じゃねーか」
都市から少し離れたワンルームのアパートに『気持ちの宅配便』は居た。
一部屋に二人づつ、六部屋あるからこの世界に『気持ちの宅配便』は十二人しか存在しないことになる。
そのアパートの二階の一番奥の部屋に、その二人は居た。
「もう飽きましたよぉ、副業しましょうよ、副業!こんな名案がポッっと浮かぶなんて…やっぱオレって天才…?」
「安心しろ、天才じゃない。ユウリはどちらかというと馬鹿の部類に入るぞ」
「オレだって…オレだって、人間みたいに学校に通って、友達いっぱいつくって、コンビニ寄って買い食いとかしたぁぁぁいぃぃぃぃぃ」
ユウリと呼ばれた黒髪に白メッシュの青年は、同室の先輩の太ももに顔をうずめてそう言った。
「やめろ、キモチワルイ」
と言いながらユウリをはがそうとする先輩対負けじと食らいつくユウリの戦いが始まった。
その戦いはわずか三秒後、先輩からの愛(?)の肘打ちによって終わりが告げられた。
「で、次の仕事だけど」
先輩の切り替えの異常な速さに驚いたのは最初の数回だけで、今ではその通常スピードじゃないと熱があるのか心配してしまうところまで来ている。
末期だ。何のとは言わないが。
「嫌だぁぁぁぁぁ」
「落ち着け、今のお前にぴったりの仕事だから」
「ほんと?」
「ほんとだって。俺が嘘ついたことある?」
「オレの期間限定のキャラメルプリン食べたとき…」
「うんうん、他には?」
「ない…思いつかない…」
「だろ?」
「けど、オレまだ許してないっすからね」
「ごめんな…で、ターゲットがこの子」
今送ったぞ、と言われたのと同時にスマホがピロンと鳴った。
「え…これなんて読むの?」
「ん?」
ユウリが指したのはターゲットの名前・如月天音だった。
「名前はあまね…だと思う」
「え、じゃあ苗字は?」
「おんなぐちつき?」
「おんなぐちで一つの漢字じゃないの?」
「じゃあ、にょ?」
「にょづきあまね?」
「知らね。知らなくてもなんとかなるだろ」
「オレも思った!」
ユウリは立ち上がってポンチョみたいな『気持ちの宅配便』の制服を着た。
紺色に金の刺繍が入った制服をユウリも先輩もとても気に入っている。
「じゃ、行ってきます!」
「おう、頑張れよ。禁忌は犯すんじゃねーぞ」
「分かってますって!あ、そういうの、フライングって言うんですよ!」
「フラグ、な」
「まぁ、細かいことは気にせずに…行ってきまーす!!」
バンッと勢いよくドアが閉まったのを見届けた先輩は
「そういうところが心配になるんだって…」
と呟き、いつものように事務仕事に戻っていった。