(エンディングも最後まで聴きたかったんだけどな)


 時計の針が示す時刻を見て、余裕はなさそうだと判断した。まだ曲は終わっていないけれど、電源を落として片付ける。DVDを幾つか借りて帰りたいからだ。選ぶ時間を考慮すれば最後まで聴いている時間はない。

 気になる一枚を棚から取り出すと、直ぐ横にあった本も釣られて引っ張り出された。背表紙を床に叩きつけた一冊は中の本文まで痛めつける状態にはならず、裏表紙を地に付け大人しくなる。


(本棚に余裕がないからってDVDと本を同じ棚に入れないでよ)


 ここはDVD棚と本棚の境。直ぐ隣の棚が本棚であるというのに、この一冊だけ収まりきらなかったのかDVD棚に収められている。


(可哀想に……)


 一冊だけ仲間はずれにされているというだけでなく、この本の姿にも同情を誘われる。

 沢山読まれた結果なのか、悪い扱いを受けてきたことによるものか、その両方なのかは分からないけれどハードカバーは激しく劣化していて、破れた背表紙は無くなっているに等しい。ページも抜けているものが多いようで、後方の数ページは糊で繋がれず挟み込まれている。奥付らしいページは失われたようだ。


(貸し出し禁書シールはなし)


 図書室の本は一冊一冊に番号を付けて管理されていて、本の背表紙にそのシールが貼られていればタイトルが分からなくとも貸し出しが許される。このような姿にされるまで多くの人の手に取られただろう本が少しばかり気になったのと同時に、戻すのが煩わしくなるほどに時計を見て焦りが込み上がる。

 深く考えず、それを受付カウンターに差し出して貸し出しの手続きをした。鞄に入れたその本は手に持っていたときよりも重く感じて、持ち帰っている最中に軽く後悔をした。


(こんなに重いのに、つまらなかったら最悪だな……)


 紙の本は重く、場所を取る。今は電子書籍の時代だ。紙書籍を買う人はおろか読む人も少ない。

 夜、ベッドの上で借りてきたそれを広げた。ページが抜けている以上は内容にも期待出来ない。持ち帰る際に労力を消費した分、読まないという選択は勿体なく感じた。

 五分。十分。

 十五分ほど読み進めた頃には目を見開け、感情は別のものに変化した。


(この本……)


 読まないなんて勿体ない。

 同じ言葉のそれは、意味が違う。