たしかに、あそこから飛び降りても、この人生は終われたかもしれない。
 でも。
「見るなら車のほうが、なんかいいじゃん」
 最後に、人の営みが見たかったのかもしれない。
 ここなら通っていく人が、割と間近で見えるから。
 運転席に座ってる人とか、その隣に座ってる人とか。
 そういうのが、この高さからだと見えてしまって、なんだか生活の一部を覗いたような気分になる。
 考え事をしてる顔とか、油断してる顔とか、笑ってる顔とか。
 ここにいると見えてしまう。
「車かぁ、いいね。俺も免許取ったらえなこちゃんとドライブデートしてみたいわ」
「……ドライブデート」
「俺、結構運転うまいと思うから。ゲーセンのレーシングゲームだと、結構いい線いってんだよね」
 本物とゲームではぜんぜんちがうでしょ。
 鼻で笑いそうになって、バカにしたつもりだったけど、なんだか肩の力が抜けた。
 気を張らなくていい相手っているんだなって思ってしまった。
 いつも、人の顔を見て、気を遣うことばかり考えるから。
「ってか、UFOキャッチャーも得意なんだよ。十回ぐらいやったら大抵取れるから」
「十回って、それ得意って言うの?」
「え、言わない? でも十回やったら取れるんだよ」
「取れるかもしれないけど」
「でも、取れるんだよ。取れなかった日がないってぐらい」
「十回超えることはないんだ」
「いや、ヨユーである」
「あるんじゃん」
 なにそれ、テキトー過ぎる。全然だめじゃん。
 だけど、笑えた。今度は鼻で笑うんじゃなくて、自然と出てくるような笑い。
「あーえなこちゃんってそうやって笑うんだ」
「え?」
「いつも想像してた。どんな風に笑うんやろって」
「……期待裏切ってたらごめん」
「なんで。かわいくて目ん玉飛び出るかと思った」
 ほら、やっぱりテキトーだ。すっごいテキトーなのに、噓くさいとは思えない。
「免許取れたら、どこか連れて行ってよ」
 そのときまで会えてたら、とはさすがに重たくて自分でも引いた。