「これ、一緒に食べてくれないかな」
紙袋に入れてきたのは、冷蔵庫に入っていたピンクの冷蔵庫。
お母さんが毎日作ってくれる、私のためのお弁当。
「……」
祈夜は中身を見て、それから私を見た。
「うん、食べようか」
何も聞いてこなかった。でもそのことが嬉しかった。
私が話すのを待つよって、雰囲気で思ってくれていることが伝わっていた。
久しぶりに開いたお弁当箱の中身は、私の好きなもので溢れていた。
カレー味のポテトサラダに、ミニハンバーグ、その隣にはオムライス。
本当は、私ひとりで食べるべきなのかもしれない。けれど、どうしても祈夜と一緒に食べたかった。
「うわ、うまいな!」
冷たいハンバーグをひとくち頬張った祈夜は大袈裟なリアクションを見せてくれていた。
きっと、こういう反応をしてくれるって分かってたから、食べてほしかったのかもしれない。
「そう……美味しいの、これ」
お母さんが毎日作ってくれていたお弁当。
いつでも、一緒に学校に行こうとしてくれていたその姿勢に、また泣けてしまいそうになる。
それを誤魔化すように、隣に座る祈夜を見た。
「……これ、貼るならそっちが貼ればよかったのに」
頬に貼られた絆創膏に触れると、祈夜は首を振った。
「これは使いたい人が決まってたから」
「え……」
「ここにいるの、何回も見た」
夜を抜け出して、街を徘徊する。その最終地点はいつもここだった。
その私を、見ている人がいるなんて知らなかった。
「車から結構見えるよ。ここに立ってる人」
「夜中に車?」
「兄貴がさ、たまにドライブ連れて行ってくれるんだよ。よく殴るし、すっげえ怖いけど、そうじゃないときのほうが多い」
「……そうなんだ」
バンバンに腫れた頬を見て、ひどい兄だと思った。
けれど、私が知らない兄弟の時間というものがあって、世界は知らないものばかりでできているんだろうなと気付かされる。
「またいるかもってここに通うようになったのが最初。それからは、いるときもあればいないときもあった」
「……ストーカーじゃん」
「今思えばそう。会えたら、それを渡そうと思ってたけど、実際に会えた日は渡せなかった」
思い出されるのは、しわくちゃになってポケットにしまわれていた絆創膏。
紙袋に入れてきたのは、冷蔵庫に入っていたピンクの冷蔵庫。
お母さんが毎日作ってくれる、私のためのお弁当。
「……」
祈夜は中身を見て、それから私を見た。
「うん、食べようか」
何も聞いてこなかった。でもそのことが嬉しかった。
私が話すのを待つよって、雰囲気で思ってくれていることが伝わっていた。
久しぶりに開いたお弁当箱の中身は、私の好きなもので溢れていた。
カレー味のポテトサラダに、ミニハンバーグ、その隣にはオムライス。
本当は、私ひとりで食べるべきなのかもしれない。けれど、どうしても祈夜と一緒に食べたかった。
「うわ、うまいな!」
冷たいハンバーグをひとくち頬張った祈夜は大袈裟なリアクションを見せてくれていた。
きっと、こういう反応をしてくれるって分かってたから、食べてほしかったのかもしれない。
「そう……美味しいの、これ」
お母さんが毎日作ってくれていたお弁当。
いつでも、一緒に学校に行こうとしてくれていたその姿勢に、また泣けてしまいそうになる。
それを誤魔化すように、隣に座る祈夜を見た。
「……これ、貼るならそっちが貼ればよかったのに」
頬に貼られた絆創膏に触れると、祈夜は首を振った。
「これは使いたい人が決まってたから」
「え……」
「ここにいるの、何回も見た」
夜を抜け出して、街を徘徊する。その最終地点はいつもここだった。
その私を、見ている人がいるなんて知らなかった。
「車から結構見えるよ。ここに立ってる人」
「夜中に車?」
「兄貴がさ、たまにドライブ連れて行ってくれるんだよ。よく殴るし、すっげえ怖いけど、そうじゃないときのほうが多い」
「……そうなんだ」
バンバンに腫れた頬を見て、ひどい兄だと思った。
けれど、私が知らない兄弟の時間というものがあって、世界は知らないものばかりでできているんだろうなと気付かされる。
「またいるかもってここに通うようになったのが最初。それからは、いるときもあればいないときもあった」
「……ストーカーじゃん」
「今思えばそう。会えたら、それを渡そうと思ってたけど、実際に会えた日は渡せなかった」
思い出されるのは、しわくちゃになってポケットにしまわれていた絆創膏。