そんなこと言うわけないのに、それが真実かのように広まって、先輩の怒りが思いっきりその子にぶつけられるようになった。
「顧問は今年入ったばかりの頼りない人で、先輩たちの言いなりだった。だから、問題が起こってることを知ってるはずなのに間に入ることはなかったし、傍観者って立ち位置を崩さなかった。結局、その子はだんだん部活に来れなくなって」
 あのときのことを何度も思い出すし、何度も夢に見る。
 乃亜ちゃんは同じ一年の中でもリーダーの役割も担ってたから、みんなからの信頼も厚かったのに。先輩の一件があってから、誰も乃亜ちゃんに寄り付かなくなった。何かあれば、すぐに乃亜ちゃんに頼ってたのに。乃亜ちゃんが困ってるときは、誰も手を差し伸べたりすることもなかった。
「私も先輩が怖かったけど、でもその子とは一番仲が良かったから、どうにかしたくて」
 部活が終わってから、先輩に言いに行った。怖かったけど、ちゃんと話し合えば分かるかもしれないって本気で思ってたから。
でも、そんなの間違いだった。
「……どうでもいいって、言われた」
「どういうこと?」
「真実なんて、先輩たちはどうだってよかった。ただ人を追いつめるのが楽しかったって」
 信じられなかった。
 後輩をただいじめてることが、それで楽しそうにしてることが考えられなかった。
「それから、乃亜ちゃんは部活を辞めた」
 ──ごめんね。
私にそう言って、離れていった乃亜ちゃんの背中が忘れられない。
 あれから乃亜ちゃんは学校にも来なくなった。
「私も退部しようと思ったけど、それこそ負けた気がして」
 辞めることだけはしないって決めてた、のに。
「でも、ああいうのって順番だね」
「……」
「今度は、乃亜ちゃんと仲の良かった私に向けられるようになって」
 体験入部からずっと一緒にやってきた子たちも、先輩が怖いから私を無視するようになって、一人になるまでにそう時間はかからなかった。
「どんどん、私の居場所がなくなった」
 部活だけじゃない。教室にも、先輩たちが私を嘲笑うようにわざわざ来て、視線だけで私という存在を貶していく。
「嫌だったけど、負けたくなかったから学校を休まなかったし、部活にも行った。でもそれが逆に、先輩たちの嫌がらせをエスカレートさせてた」
 目の前でハッキリ言われたことが忘れられない。
『次は知世の番だから』
 先輩たちに囲まれるようにして言われたあの光景が、ずっと焼き付いて離れない。
 嫌がらせはどんどん続いた。私のテニスボールが潰されていたこと。片付けたばかりなのに、コートにボールが散らばっていたこと。それが問題になっても、顧問は私よりも先輩たちの言葉を信じたこと。