毎日が憂鬱で、生きていくのが辛くて、でも生きていかないといけなくて。
 好きだったドラマを観ても、漫画を読んでも、なにも楽しくない。ふいっと、やめてしまうし、その中に入っていけないぐらい、嫌な映像と声で簡単に支配されてしまう。
 忘れたくても忘れられない思い出が多くなって、抱えきれなくなって、なんてことはない時でも勝手に涙が出るようになった。
「なんでもいいよ、好きだったものでもいいし」
 そんな私なんて知らない顔が、隣で笑う。へらへら、へらへら。
「……なくなった」
「え?」
「好きなものも、好きじゃなくなった」
 だから、答えるものなんてなにもない。
 空っぽだった。私の中から、何かが欠けてしまった。
 一瞬、静かになった。
 ずっと喋ってた祈夜が、喋らなくなって、車が一台通っていたタイミングで口を開くのがわかった。
「俺も、なにもないよ」
 視線が、道路から隣に流れた。
 月明りに照らされた顔は、笑っているというよりも、笑っているようにしているような顔で。
「えなこちゃんと一緒。何観ても感動しないし、何聞いてもやっぱり感動しない。うまいって言われてる飯食っても味しないし、なんていうか、心が動かなくなったんだよね」
 だけどさ、と祈夜が言う。
「久しぶりに、ちゃんと世界見たなって思った」
「世界?」
「ここに来るようになってから。ほら、こういう景色とか空とか。ろくに見てなかったけど、見てなかっただけでそこにあったんだなって」
 そう言って、祈夜は空を仰いだ。
 私も同じように見上げて、ちらちらと輝く星を視界に入れる。
「……こんなに星ってあったかな」
 たくさん見えるわけじゃない。でも目を凝らすと、たしかにそこにある。
「ほんとはさ」
 祈夜の、とても澄んだ声が言った。
「あの日、俺、死のうと思ってたんだよね」
「……え」
 なんてことはない口ぶりで、相変わらず笑みを作って、でも嘘をついているような顔じゃない祈夜が言う。
「えなこちゃんがいなかったら、多分俺が死んでた」
 なんて言った?
「……」
 祈夜と目が合う。
 言葉にならなかった。
 自分の死は、別にいいと思える。
 でも、人の死は、また別の重みがあった。
「……どういうこと?」
「言うたやん。死のうとしてたって」
「いや、だって」
「そうは見えんかった?」
 笑ってたじゃんか、ずっと。
 死からものすごく遠い場所で、へらへらしてたじゃん。
「でも先客がいた」
 誰もいない歩道橋。私と祈夜だけの世界。
 私を見つけた人。
「なんて声かけようか、これでも迷ったからなぁ」
 私がいなかったら。
 ここに来てなかったら、立っていなかったら、別の命が絶たれようとしていた。
「だから感謝してるよ。えなこちゃんがおってくれて」
「でもそれって」
 そこまで言いかけて、言葉が出てこなかった。
 だって、それって、また今度があるってことじゃないの?
「言いたいことわかるよ」
 へんなイントネーションが一切取っ払われた声。
 祈夜の表情は軽やかだった。