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「なぁ、深森ってどんなやつ」
クラス委員の陽子に聞いてみた。陽子は要領よく、なんでもこなし、クラスのことをよく見ている。しかし率先して面倒ごとには首を突っ込まない。わかっていても助け船を出すタイプではない。聞けば答えてくれるので女子のことで聞きたいことがあれば、だいたいみんな陽子に聞いていた。
「さぁ。なんか幽霊みたいな子かな」
「幽霊?」
意外な答えに俺は驚いた。
空気みたい。っと答えると思ったのだ。
「だって気配を感じると居るって感じなんだもん。普段は視界に入らないのに、時々、目につくの」
「へぇー。例えば」
「そうね……。そうだクリスマスの日にさ、家庭科で小さなクリスマスケーキ作ったよね」
「そんなこともあったな」
「スポンジは用意されてて、生クリームとイチゴを載せてデコレーションしたでしょう。あのときさ、深森さん、山盛りにあったイチゴの中から、青い苺ばかり選ぶんだよ。全部じゃないけど、何でって目についたんだよ」
「残り物が青かっただけだろう」
「違うよ。左から順番の席から5個持っていきなさいって先生が言ったじゃん。永田君忘れちゃった」
「そうだったっけ」
「そうだよ。始めの方に取りに行ったのに、なんで不味そうな苺を選ぶんだろうって、やけに目についたんだぁ。他の子はクスクス笑って幽霊だから青いのがいいのかなって言ってたけど」
それを聞いて、陽子の友達が机に肘をついてクスクスと意地悪く陽子の陰に隠れるように笑っている。
感じ悪い奴ら。
それにしても、そうだったのか。幽霊と言われてたことすらまったく気がつかなかった。俺はそれほどまでに深森に興味がなかったのだ。
幽霊か。
目の端で深森を捉える。
窓際のちょうど外の壁が凸になっていて深森だけが日陰になっている。さんさんと光りは注ぐのに、そこだけ陰になっていて深森が幽霊みたいに、ぼうっと浮いているように見えた。
その馬鹿な考えに俺は頭を振った。
深森は生きてるつーの。
「永田君、何かあったの」
興味津々に目を輝かせ、やけににやにやと陽子は俺を見上げた。これは絶対に恋愛ごとと結びつけようとしている目だな。
冗談じゃない。
俺は曖昧に答えてその場を逃げた。
うーむ。変な噂が立たなければいいけど。それにしても深森咲楽かぁ。
ピンクの筆箱を拾ってから俺はずっと深森が気になり自然と目で追っていた。
純粋な好奇心だ。
目の隅にいる深森は、いつでもひとりでいた。それこそ放課も、移動の時間も、体育の授業も。
なんであんなに人と距離を置くんだろうか。
暗い教室の片隅で、自分の机ばかり、にらめっこしている深森。なんでだろう。目が離せない。──そうして必ずデパートで鉢合わせたときのことを思い出す。
泣きそうな顔。
ツキン。
心臓にトゲがぶすりと突っ込んできた。
なんだよ。俺は陽子たちみたいに陰で笑ったりしてないぞ。ましてや幽霊なんて言ってないぞ。
しかしあのあと深森は隠れて泣いていたのだろうか。俺は陽子たちよりも深森を傷つけることをしたのだろうか。
だぁー! やっぱりわかんねー。
俺は頭を掻きむしった。女の気持ちなんてわかるはずがないのだ。
「なぁ、深森ってどんなやつ」
クラス委員の陽子に聞いてみた。陽子は要領よく、なんでもこなし、クラスのことをよく見ている。しかし率先して面倒ごとには首を突っ込まない。わかっていても助け船を出すタイプではない。聞けば答えてくれるので女子のことで聞きたいことがあれば、だいたいみんな陽子に聞いていた。
「さぁ。なんか幽霊みたいな子かな」
「幽霊?」
意外な答えに俺は驚いた。
空気みたい。っと答えると思ったのだ。
「だって気配を感じると居るって感じなんだもん。普段は視界に入らないのに、時々、目につくの」
「へぇー。例えば」
「そうね……。そうだクリスマスの日にさ、家庭科で小さなクリスマスケーキ作ったよね」
「そんなこともあったな」
「スポンジは用意されてて、生クリームとイチゴを載せてデコレーションしたでしょう。あのときさ、深森さん、山盛りにあったイチゴの中から、青い苺ばかり選ぶんだよ。全部じゃないけど、何でって目についたんだよ」
「残り物が青かっただけだろう」
「違うよ。左から順番の席から5個持っていきなさいって先生が言ったじゃん。永田君忘れちゃった」
「そうだったっけ」
「そうだよ。始めの方に取りに行ったのに、なんで不味そうな苺を選ぶんだろうって、やけに目についたんだぁ。他の子はクスクス笑って幽霊だから青いのがいいのかなって言ってたけど」
それを聞いて、陽子の友達が机に肘をついてクスクスと意地悪く陽子の陰に隠れるように笑っている。
感じ悪い奴ら。
それにしても、そうだったのか。幽霊と言われてたことすらまったく気がつかなかった。俺はそれほどまでに深森に興味がなかったのだ。
幽霊か。
目の端で深森を捉える。
窓際のちょうど外の壁が凸になっていて深森だけが日陰になっている。さんさんと光りは注ぐのに、そこだけ陰になっていて深森が幽霊みたいに、ぼうっと浮いているように見えた。
その馬鹿な考えに俺は頭を振った。
深森は生きてるつーの。
「永田君、何かあったの」
興味津々に目を輝かせ、やけににやにやと陽子は俺を見上げた。これは絶対に恋愛ごとと結びつけようとしている目だな。
冗談じゃない。
俺は曖昧に答えてその場を逃げた。
うーむ。変な噂が立たなければいいけど。それにしても深森咲楽かぁ。
ピンクの筆箱を拾ってから俺はずっと深森が気になり自然と目で追っていた。
純粋な好奇心だ。
目の隅にいる深森は、いつでもひとりでいた。それこそ放課も、移動の時間も、体育の授業も。
なんであんなに人と距離を置くんだろうか。
暗い教室の片隅で、自分の机ばかり、にらめっこしている深森。なんでだろう。目が離せない。──そうして必ずデパートで鉢合わせたときのことを思い出す。
泣きそうな顔。
ツキン。
心臓にトゲがぶすりと突っ込んできた。
なんだよ。俺は陽子たちみたいに陰で笑ったりしてないぞ。ましてや幽霊なんて言ってないぞ。
しかしあのあと深森は隠れて泣いていたのだろうか。俺は陽子たちよりも深森を傷つけることをしたのだろうか。
だぁー! やっぱりわかんねー。
俺は頭を掻きむしった。女の気持ちなんてわかるはずがないのだ。