「こんばんはー」


 しかし、突然のお店への訪問者に音楽もピタリと止んだ。


「敏さん、こんばんは。今日お父さん夜勤入ったから家に帰ってこれないらしくて、おかず余ったからお裾分け。今回作りすぎたからお兄ちゃんは明日の朝も食べてよ」


 話の内容から察するに、ユイさんが前にも話していた妹さんなんだろう。


「いつもありがとう、アミちゃん」

「いえいえ……って、あれ?」


 歌を歌っていた余韻のままぼんやりしていたところ、声と姿が――違和感と現実が急に繋がる。


「アミ……?」

「知り合いなの!?」


 私たちが見開いた目を通わせたところ、誰よりも早くユイさんが驚いた声をあげる。


 驚くのはこちらだ。まさかふたりが兄妹だったなんて。


「コトハは私の一番仲良い友だちだよ」


 アミがそうユイさんに伝えた。この1ヶ月ほどの間で私たちは急激に仲良くなった。


 だが、そんなふうにまっすぐ言われると、なんだか恥ずかしい。


「逆になんでコトハが『悩み人カフェ』に?」

「このカフェ好きなの。『悩み人カフェ』ってこの店の略?」

「そう、長いから私が考えたの」


 たしかに『悩める人のためのカフェ』よりは遥かに語感がいい。


 私もそう呼ぼう、と密かに決める。


「言われてみれば似てるかも。ふたりとも美男美女だし」


 私はふたりを見比べながら言った。


 こうやって並んでいるのを見ると、まるでそこだけ完成された世界のようにすら見えてしまう。