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「……なあ白。お前、作夜見の娘を許嫁に、とか考えてる?」
昼休みの時間、白桜と黒藤は庭園の四阿(あずまや)にいた。
白桜が椅子に座っていて、黒藤は柱に寄りかかり立っている。
「逆仁殿との話を聞いたのか?」
「……逆仁じいさんがうちに寄ってわざわざ話して行ったんだよ」
そう言われて、白桜は素直に話すことにした。
「冬湖を、というのはないな」
「なんで。白からしたら好条件じゃん。陰陽師の家系で、御門流ではないけど高位の一族。父も本人も結婚を望んでる。白を護ろうという気概さえある。……こう並べるとほんとすげーな、作夜見冬湖」
黒藤の評価に、白桜は脳内でうなった。
条件だけで見れば、白桜にとっては本当に『好条件』なのだ。
「……それは否定できないが、単に、冬湖には巣立ってほしいと思ったからだよ」
「……それ何目線?」
黒藤が平坦な目で白桜を見てくる。
「わかんないけど――俺のところにいるような存在じゃないよ、冬湖は」
「……ふーん?」
納得したのかしていないのかよくわからない反応だった。
だが、上出来だろう。黒藤からかえってくる言葉としては。
「涙雨殿はあのあとどうだ? 体調崩してないか?」
「元気に飛び回ってるよ。鳥の姿でも子供の姿でも、こたと一番仲がいい」
「それはよかった」
「……白?」
「なんだ? 別になんも怒ってないけど」
「うん、そうみたいだ」
白桜の様子をうかがうようだった黒藤が、一転にっこりと笑った。
「あとは白が双葉を配下にすれば万事解決だなー」
「……その原因の一旦はお前だったな?」
「あ」
「なーんかイライラしてきたなー」
「い、イライラはお肌に悪いよ、白」
「誰のせいだっけ?」
「ご、ごめんなさい……っ」
いつも通り。いつの間にかいつも通りになった、二人のやり取り。
(いつまでこうしていられるだろうか)
出来るなら、長いことを願いながら。
END.