「家への説明は、家出したわたくしからするのが妥当だと思いますの。これ異常ご迷惑をおかけしたくないのもありますが、わたくし、一度お父様に言い返さないと気が収まりません」
冬湖の目は、闘う気にあふれていた。
父の前から逃げた冬湖が、立ち向かおうとしている。
それは成長とかいうたぐいのものなのだろう。
白桜は唇の端でほほ笑んだ。
「わかった。そうしよう。転学のことで力になれることがあったら、頼ってほしい」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたしますわ」
晴れやかな笑顔。初対面のときはびくびくしていた冬湖が、御門邸の中で笑顔になっていった。
白桜はそれを、誇らしく思う。
たった一人でも、ほんの刹那であろうとも、笑顔にする。
……それが白桜の目指す当主だ。
「そういやこいつ、警察行きだけど、どうする? 俺からも警察に連絡とっておこうか?」
「お前は華取の一択だろう。ここ管轄違い」
「あ」
「俺の方で対処するから、気にするな」
「……ん」
黒藤がうなずいたのを見て、白桜は改めて冬湖に向き直った。
「さっきは助けてくれてありがとう。まだ、ちゃんと礼を言っていなかった」
「いえ、そんな」
「それから――ようこそ」
こちら側へ。
そうこまでは口にしなかった白桜だが、冬湖はわかったらしい。
自分に芽生えたかもしれない力に。その目元がうるむ。
「……わたくし、皆さまのお役に立てるように、精進いたしますわ」
「ああ。一緒に、がんばっていこう」
「はいっ」
それから警察が到着して、一連のことを話して男は連行された。
白桜たちもそこで話せることは話した。必要があればまた事情聴取があるという。