「そ、そうなのですか……?」

「そうそう。姫を特別扱いするっつーわけじゃねーけど、あいついまいち自分の重要性わかってねーし」

姫、と呼ぶ割には「あいつ」とぞんざいな扱いをする白桜と黒藤に、百合緋は首を傾げた。

司家は神祇一派の祖にして主家。月御門と影小路はその下に直接ついている。

だからその当主と白桜たちに面識があってもおかしくはないし、許嫁と知り合いでもおかしいとは思わない。

……けれど、この二人をここまで揺さぶる人は初めて見た。

絶対に関わらないでおこう。口を一文字に結んで百合緋はそう決めた。

「それより冬湖、なんでここに?」

白桜が、今更ながら訊いた。

冬湖はてっきり御門別邸にいるものだと思っていた。

「それが……今日、御門様が強襲に遭うという夢を見てしまい……こっそりつけていました」

「夢? 予知夢を見る体質だったのか?」

「……今まではそんなこと一度もなかったのです。なので自分でも能無しだと思っていたので驚いたのですが……本当だったらどうしようと思って……何もなければ一番いいと思って御門様のお邸に戻るつもりでした」

「「………」」

白桜と黒藤は顔を見合わせた。

今も、冬湖から感じる霊力は薄い。だが、皆無ではない。

御門別邸にいるうちの何かが引き金になって芽生えたのだろうか。

「そうか。……冬湖、家に帰れるか?」

白桜は、冬湖を家に迎えた日ぶりにそう訊いた。

冬湖は眼差しを厳しくさせた。

「……はい。戻ります」

「そんな怖い顔すんなよ、作夜見。そんくらいの腕がありゃ、武道の世界では結構通じると思うぞ?」

黒藤の言葉に、冬湖はいいえと首を横に振った。

「師匠と、犯罪事件の加害者をぶっ飛ばすときと、被害者を護るとき以外に使わないことを約束して教えていただきましたので……」

「「………」」

白桜と黒藤、そろってまた落ち込みかけたがここはなんとか踏みとどまった。