「存じ上げませんでした……。師匠とは、わたくしがかなり困ったタイプの男性につきまとわれているところを助けていただきまして……鮮やかに撃退したそのお姿に一目ぼれして弟子入りしたのですわ」

「「………」」
 
白桜と黒藤は膝を抱えて座り込んでしまった。どよんと重い空気が漂っている……。

「み、御門様……? あの、水旧(みなもと)様……」

冬湖に眼差しを向けられた百合緋は、慌てて首を横に振った。二人がこれほど落ち込む理由は百合緋にもわからない。

百合緋ははっとしたように天音を見上げた。が、そろりと視線を逸らされた。無炎も同じ反応だった。

一体何があるというのだ。

「……黒藤」

「……うん」

式に呼ばれて、黒藤はのっそりと顔をあげた。

「白……もう腹くくるしかねえよ」

「ああ……」

白桜もよぼよぼと顔をあげて、深くうなずいた。

やっとの思いといった感じで立ち上がる二人。

「すまない、冬湖……」

「い、いえ……」

白桜と黒藤のやつれ加減に冬湖も口元が引きつる。白桜が表情をあらためる。

「姫は――大和斎月様は、司家当代当主、國陽――様の許嫁だ。そんで、めちゃくちゃに強い。腕っぷしが」

「司のご当主様の……! わ、わたくしはなんてことを……!」

「まあ……姫が教えたんなら冬湖が式より早く気づけてもおかしくないって思ったわ」

白桜、半眼だ。

大和斎月は武術においては達人の域。

それを直々に習っているのなら、あやかしより早く危険を察知したことも不思議ではない。

そう、わからせてしまうのが大和斎月なる人物だ。

「では……師匠とはもう関わらない方がよろしいのでしょうか……」

冬湖がそう考えるのもわかる。

斎月は、ゆくゆくは司家の女主(おんなあるじ)として君臨する存在だ。

畏怖をいだくのも不思議ではない。

そして冬湖は、斎月の存在がどれほどかをわかってしまう。

「まあ、気にしなくていいと思うぞ。あいつはそういうとこ無関心っつーか全く気にしてないし」