「……?」
「ゆ、百合姫?」
脈絡のわからない言葉に、黒藤は首を傾げて白桜は名前を呼ぶことで説明を求めた。
しかし百合緋は続きを答えず、白桜と黒藤を見上げてにやりとした。
「なんでもなーい」
「いやなんでもなくないだろう、百合姫――」
「御門様危ない!」
――え?
白桜が百合緋に詰め寄ろうとしたとき大声で呼ばれ、振り向くと同時に影が滑り込んできた。
そして鈍い音が響く。
「うぐっ」
「御門様に襲い掛かろうなど不届き千番! 再起不能にいたしますわ!」
斎陵学園の制服を着た男子が、腹を抱えてうずくまっている。
その男子生徒と白桜の間には、朝白桜たちを見送ったときと同じ着物姿で戦闘態勢の冬湖がいた。
「と――冬湖?」
慌てた白桜は、つい冬湖を呼び捨てにしてしまった。
それに応じるように冬湖が振り返る。
「ご無事ですか御門様!?」
「俺は無事だけどその人が無事じゃないだろうっ」
うめき声をあげ、体を小刻みに震わせている。
さすがに白桜もわけがわからない。
ちらっと見れば、百合緋は呆然として、天音は白桜の命通り百合緋を護るように前に出ていた。
白桜の護衛でもある無炎は白桜と同じく反応出来なかったようで、目を大きく見開いて男子生徒と冬湖を見ている。
そして黒藤はえ、え、と白桜と冬湖と男子生徒を何度も見ている。気づけなかったことを悔いているように口を引き結んだ。
――黒藤のこんな態度、どれほどの者が相手でも仕事場で見たことはない。
白桜が被害者になりかけたことを知る冬湖は、そんな面々に向かってにっこり微笑む。