ならば白桜は、『幸せに生きる』方を選ぶ。

当主として生きることは、白桜の『己の望まない命』ではない。

だが、白桜が決めたのは『幸せに生きる』命だ。

当主として生きることを、その中に含めると決めた。

強くなろう。そして、優しくなろう。

冬湖に言った。『困っている人を助けることだ』と。

それをこれからも有言実行していこう。

白桜は今、幸せだから。

だから、大丈夫なんだ。

「白―! 百合姫―!」

朝から元気いっぱいな声とともに、黒藤が駆けてきた。

「おはよっ」

「おはよう」

「元気ね、黒藤。おはよ」

白桜はいつも通り落ち着いていて、百合緋は少し疲れたように返事をする。

「白、あれから大丈夫? 百合姫も怪我とかしてない?」

素直に心配の表情を見せる黒藤に、百合緋は糸目になった。

「黒藤も一枚噛んでたらしいわね?」

「うっ……お、俺が企んでたわけじゃないからなっ? 一葉が勝手にするの黙認してただけだし」

「まあ白桜に今のところ害がなかったから責めないけど……白桜が許したことだし……」

「あ、ありがとう……?」

「でもね、黒藤」

「は、はい」

「白桜を死なせたら、わたしは黒藤を呪うわ」

「も、もちろんそんなことあり得ない!」

黒藤が真っ青になって否定した。そんなこと、考えるだけで俺が死んでしまう。

「この前は知ってる情報を明かさずに白桜を使ったし」

「う……」

「今回は結果、白桜が危ない目に遭ってるし」

「……うぅ」

「黒藤、本当に白桜のこと好きなの?」

「もちろんだ! 甘やかすだけが俺の愛情じゃないだけ!」

「そう、ならいいわ」