「え、白桜危ないんじゃないの?」

翌日の登校時、白桜は百合緋にことの経緯を話した。

白桜の行動も変わってくるだろうから、常に一緒にいる百合緋には把握していてもらわないといけなかった。

御門の者ではない百合緋は御門の内部の話には関われないが、白桜個人のことは話せる。

「そう危なくもないよ。加減はしてこないけど、そう力のあるわけでもないようだし」

――白桜を狙った襲撃は、実は白桜が家を出た瞬間から始まっている。

門を出た途端に矢が降ってきて(随行する無炎が霊気で薙ぎ払った)、人影のない道から暗闇へ誘い込む歌が聞こえてきて(想定していたので無視出来た)、など。百合緋もともに歩いていたが、天音が己の霊力で百合緋を覆い護っているので、被害がないどころか気づいてもいなかった。

「それって、どこで蹴りがつく話なの? 白桜が負けることはないんだから、ずーっと続いちゃったりしない?」

――百合緋は、一途に白桜を信じている。白桜が負けるなどあり得ないと。そのまっすぐさに、白桜は苦笑した。

「俺が双葉を叩きのめすって方法もあるから、そうかからないと思うよ」

自信のない当主だった。

その座に己はふさわしくないと思っていた。

でも今、白桜はその迷いに少しだけ蹴りをつけた。

歩もう、と。

これから、なっていこう。

白桜が描く『当主』に。

そして御門が望む『当主』に。

白桜は、御門の当主となるために生まれてきたのではないのかもしれない。

それは祖父に敷かれた未来だった。

だが結果的に白桜が『御門が当主』となり、生きている。

母は白桜に、命をくれた。

命をどう使うか、決めるのは白桜だ。

幸せに生きるか、己の望まない命を生きるか、その二択。