「わかりましたわ。白桜様なら、大丈夫ですわね」
「そうですね、天音殿。白桜様、家の護りは我らにお任せを。白桜様はご自身の仕事に集中できるようにいたします」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
「………」
邸内面子でのやり取りを見ていた黒藤は、唇を引き結んだ。言えることは、ない。
でも、俺が言わなくちゃ。
「……白」
「おう? なんだ、顔白いぞ?」
なんでもない顔をした白桜を前に、黒藤は言葉をなくした。
――白桜は御門が当主だ。
絶対に、負けることの許されない存在。
黒藤には叶わない、ただ一人の場所に、すでにそこにいる。
そこで、凛とあり続けようとしている。
それを、幼馴染だからとか、俺の方が強いからとか、そういう理由で邪魔することは許されない。
白桜は、矜持(プライド)のためにそこにいるのではない。
生きるためにそこにいるのだ。
そして、凛とあり続ける白桜は周囲の期待を背負うようになった。期待を背負い、己の命をかけて。
……黒藤が御門内部のことに口をはさむことは、白桜の命を取り上げるようなものだ。
そんなことをしたら、白桜に嫌われてしまう。
そんなことになっては、黒藤は命を投げてしまう。
……だから、しない。
今は。
双葉の言葉と重なる。今は、出来ない。だが、いつかする。
そう、それだけのこと。